『その他short』

□File.3
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『帝光六物語』

File3-青峰大輝ノ話



青峰はある言葉を投げかけた。


『で、お前らって霊とか信じてんの?』


全員が、どうだろうかと首を傾げる。

いわゆる霊感は全くない。

しかし赤司と紫原は自身の奇妙な体験を語った。

それは霊を信じている信じていないの話ではなく、知っている知らないの話になる。


『まぁ、不思議な体験をしてしまったことだし、霊はいるかもしれない…そんなところだな』


赤司はそう言って、横の紫原に同意を求める視線を送る。


『んー…いてもいいんじゃない?霊くらい』


ばりっとお菓子の袋を開ける。

二人とも、奇妙な体験をしたからといって積極的な霊肯定派になる気はなかった。

お前はどうなのだよ、と緑間が青峰に水を向ける。

青峰は遠い目をして、自身の体験を語りだした。

中学一年の夏、肝試しに行ったことがある。

もうすぐ始まる夏休みを前にクラスメイトとそんな話が持ち上がって、たまにはそんなバカなことをするのもいいかと思った。

場所は廃ホテル。

中学から青峰の家まで、不自然に遠回りをすれば通り道にある。

そのホテルは青峰が生まれる前から廃業しているらしく、不景気の煽りを受け解体も再開発もされないでいる。

肝試しを発案したクラスメイト曰く、焼身自殺者が出ただの、防空壕を埋め立てた作られただの。

明らかに尾ひれがついているだろうが、中学生の噂の的になるくらいは不気味な外観をしていた。

適当に中を見回って戻ってくる。

それだけで済むはずであった。

深夜、校門の近くで待ち合わせてその廃ホテルへ向かった。

男女合わせて数人。

ホテルはフェンスに囲まれており、裏に一ヶ所だけフェンスが途切れている場所がある。

そこから中に入った。

暗闇に浮かぶ錆びたホテルはなかなか不気味だった。

懐中電灯をつけ、廊下を歩くといかにも何か出そうだ。

荒れてはいたが、部屋やエントランスはけっこう豪奢な作りをしている。


『俺はそういうの怖いと思う性格じゃねぇし、その肝試し自体、参加したのは本当に気まぐれだったからな』


暗くて荒れているだけのホテルにそろそろ飽き始めた時、青峰は吸い寄せられるようにガラスのはまっていない窓を見た。

瞬きをするかしないか、そんな刹那に白い影が窓を横切った。

車のライトが見間違いか、定かではない。

こんなところにいるせいかその白い影は白装束の女だと想像させられる。

クラスメイトがある部屋に足を踏み入れた瞬間、空気がはりつめて嫌な感じがした。

髪が逆立ち、全身が粟立つ。

怖いと思っているわけではないのに、そうさせられる。

急に、電話のベルが鳴り響いた。

女子が悲鳴をあげる。

誰かの携帯ではない、ジリジリという音は固定電話を連想させる。

このホテルの電話だろう。

青峰は不快だった。

このホテルに来てから、何かに自分の行動が操られている気がしていた。

窓を見る、白装束の女を想像する、全て自分の意思で自発的に行われるべき行為が、させられているという苛立ち。

懐中電灯を持っているクラスメイトが、やばい帰ろうと言った。

女子たちが半泣きで頷く。

まだ電話は鳴り続けている。

クラスメイトの制止を無視して青峰は音のする方へ進んでいった。

あった。

電話だ。

アンティークな黒電話からジリジリとベルが鳴っている。

青峰は迷わず受話器を取った。


『うるせぇ!!』


吠える。

受話器から女の声が聞こえていた気がするが構わず怒鳴りつけた。

その瞬間、このホテルの電話という電話が一斉に鳴り出した。

流石にやりすぎたと思い、クラスメイトと共にそのホテルから出た。

ホテルを抜け出し、十分離れたところで改めてそのホテルを見る。

まだ電話は鳴っているだろうか。


『その日はそれで解散。金曜の夜だったから次の日から普通に部活に出た』


肝試しから何日か経ったある帰り道、青峰は部活で疲れているのにも関わらず遠回りをして帰った。

というのも、最近出来た影の薄い自主練仲間の家がこちらの方向だからだ。

その仲間と別れ、自分の家の方へ向かう。

あまり通ったことのない道だったが、なぜかこちらが近道だと思いその道に入った。

あのホテルのある通りだ。

また、吸い寄せられるようにある窓へ視線が誘導される。

白装束の女がいる。

青峰はどきりとした。

自分の立ち位置からホテルまでかなりの距離があるのにも関わらずその女は霞むことなくはっきり見える。

青峰は足早にその場を通りすぎた。

家に帰り、携帯を確認すると着信が一件残っていた。

あのホテルからだった。

登録した覚えはないのにそう表示されている。

それから何故か青峰は何度かあのホテルのある通りを通って学校から帰っている。

気がつくとそちらへ足が向いているのだ。

気付いた時には引き返すこともバカらしい。

そしてお決まりのようにホテルの窓へ視線が持っていかれ、白装束の女を見るのだ。

ある日の帰り道は、緑間と一緒になった。

青峰は彼が苦手であるし特に話すこともないがわざとらしく距離をあけて帰るのもおかしいので、並んで帰った。

おい、と緑間に声をかけられて青峰は振り返った。


『なんだよ』

『どこかへ寄るのか?』


一瞬なんのことだと思い緑間をなじろうとしたが、はっとする。

分かれ道、自分の足があのホテルの通りへと向いていた。


『たまには遠回りして帰るんだよ、悪いか』


青峰はそう悪態をついてそのまま進んだ。

緑間は何か言いたそうだったがついてきているようだった。

そしてホテルが見えてきた。

夕闇の中に建っていようと、感傷的な姿よりはやはり不気味な姿をしていた。

青峰の目が窓へ引きつけられる。

いる。

女が。

青峰は歩調を落とし緑間と並んだ。


『…緑間、そこのホテルの二階の角の窓…何か見えるか?』


緑間はちらりとホテルを一瞥する。

彼は眼鏡を外した目で青峰の言う窓を見た。

その様子を見た青峰は彼を小突いた。


『ボケてんのかよ、眼鏡かけろ』


ふん、と青峰は鼻で笑った。

もうすぐバスケ部の夏合宿が始まる。





To Be Continued...

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