『その他short』

□File.2
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『帝光六物語』

File2-紫原敦ノ話



赤司の話が終わり、紫原が取り上げられていたお菓子の一つを頬張る。

棒状のスナックを口に押し込み、指をぺろりと舐める。


『じゃあ、次は俺が話そうかなー』


紫原がお菓子の空き箱を横の机に無造作に置いた。

それを緑間が無言でゴミ箱へ捨てる。

黄瀬が目を輝かせて身を乗り出した。


『紫っちの怖い話聞きたいッス』


紫原は、体躯の大きさに比べ小さな椅子に座っていて居心地が悪そうだ。

彼は椅子に逆向きに座り、背もたれに肘をつく。


『じゃあ話すけど、俺こないだ幽霊に肩叩かれたんだよね』

『…オチ最初に言ってんじゃねぇよ』


青峰がぼそりとツッコむ。

赤司も一言添える。


『紫原、怪談は順を追って話すものだ』

『だって回りくどいと面倒じゃね』


お菓子に伸ばした手を、緑間に払われる。

不機嫌になりながらも紫原は事の顛末を話し出した。


『あの日は遠征で…ほら、いつもなら学校のバスなのにたまたま電車使った日あったじゃん』


紫原の言葉に、部員たちは思案顔になる。

確かに春先に一度遠征で電車を使ったことがあった。

遠征といってもわりと近めの学校との練習試合であったし、その日は通り道の道路で事故が発生し混雑が予想されたために電車を使った。

普段はバスケ部専用のバスを使うため、わざわざ電車に乗る面倒さを嘆いたことを紫原は覚えている。

そこまでして試合に行きたくないとさえ思ったほどだ。

その試合といえばなんの問題もなく帝光が勝利した。


『捻り潰して、ああつまんないなって感じ。で、その帰り道にさー…』


試合の内容自体は帝光の一方的な展開であり、いつも通りであった。

ただ練習試合は時間の許す限り試合を繰り返すので公式戦より一日の試合数は多い。

そのせいか試合内容のわりには疲れており、帰りの電車の中ではちらほら寝てしまっている部員もいた。

ただその中で紫原は起きていた。

隣に座っている黄瀬は眠っていて紫原の肩に寄りかかっているし、前の席に座っている青峰だって船を漕いでいる。

何故か眠れなかった。

体は疲れていたから目を閉じて項垂れる。

眠れる気はしなかったが疲れは抜けていくような気がした。


『そしたらさ、トントンって誰かが肩叩くんだよね。目開けてもみんな寝てるし…でも寝たふりかもしれないしイタズラだと思ってた』


反対側の肩には黄瀬が寄りかかっているし、正直重いし邪魔だなと思った。

ちらりと黄瀬の方に顔を向けると反対側の肩をトントンと叩かれる。

素早く視線を戻してみたが、叩いた人物は分からない。

というか隅の席なので反対側から人に肩を叩かれることはないのである。

正面に立っている部員はつり革に掴まっている腕に頭を預けて目を閉じている。

ますますどういうことか分からなくなる。


『やっとそこで幽霊だって思った。でも俺幽霊見えないし、カメラなら映るかなって携帯出したんだよねー』


鞄の中から携帯を取り出す。

近くに幽霊がいるからフリーズする、なんてことはなかった。

紫原は携帯カメラのインカメラで自身の肩を撮影しようとしたが、その必要はなかった。

カメラを起動させる前にその正体が分かったからだ。

電車がトンネル内に入り、外からの光が遮断される。

ぼんやりと携帯の待ち受けに反射して映り込んでいるのは、自身の肩に乗っかる白い手だった。


『俺それ見た時反射でその白い手掴もうとしちゃった。でもすーって消えてそれっきり肩叩かれなくて、結局よく分からなかったんだよねー』


終わり、と紫原が最後に付け加える。

幽霊だと確信したのにも関わらずその手を掴もうとする彼に部員たちは脱帽する。

もし手を掴めていたら、紫原の握力で握り潰していたら…と考えると間の抜けた話だ。


『霊に触ろうとするなんて、非常識なのだよ』

『いや心霊現象に常識ってあるんスか…』


緑間が勝手に紫原に呆れ、黄瀬もまた勝手な緑間に苦笑する。

紫原曰く、試合後で疲れていたしうざかったから、らしいが。


『そういえば、黒子っちも呼びません?まだ校内に残ってると思うんだけど』


黄瀬の意見に、青峰が賛同する。


『そうだな、テツも呼ぶか』


そう言って彼は、黒子にLINEを飛ばすように黄瀬に言った。

「今どこッスか?みんな集まって部室で怖い話やってるから、黒子っちも来ません?」

黄瀬がそうメッセージを送った瞬間に既読表示になり、すぐ行きます。とメッセージが返ってきた。






To Be Continued...
 

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