□西
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私が小さい時から頼り甲斐のあるお兄さん。
誰に対しても優しくて、困った時は助けてくれて、ちょっと抜けてるところがあって。
でもいざと言う時はカッコイイ。

本当に大好き。







「親分も好きやで〜」
「…うう」

私の好きと彼の好きは、同じじゃない。
例え愛してると言っても、やっぱり意味は同じにならない。

「名前はホンマ、昔っから俺のこと好きやんなぁ」

昔から変わらない、太陽みたいな笑顔でそんなことを言う。

ずーっと、好き。
そう。ずっと好きなのに伝わらない。

付き合ってと言っても、買い物に?ってお決まりのボケをかましてくるし。
デートに誘っても、普通のお出かけ気分だし。
どうすれば、本気に捉えてくれるのだろうか。

なんて、悩んでいたのに。













「名前!!」

玄関のドアが開くと同時に、彼の珍しく慌てた声。
なんだなんだと思いながら、リビングから顔を覗かせる。

すごい汗。
この暑い中、走ってきたのだろうか。

「上がってお茶でも」
「ええから!それより!!」

私のセリフを遮って、ドカドカと真面目な顔で詰め寄ってくる。
その様子にキュンとしながらも、何だかちょっと怖いなとも思う。

そして目の前に来たかと思うと、眉尻を下げた表情で。

「イギリスの奴と付き合うんか!?」

と、一言。

「…誰情報?」

ぽかんとして、ようやく出た言葉。
それに対して食い気味で捲し立ててくる彼。

「誰でもええやん!
付き合うんか、付き合わな…はっ、まさかもう付き合うとるんか!?
あかんあんな奴親分許さへん!!」

大事な子、あんな毛虫眉毛になんか渡さへんよ!!と、息巻いている。

「落ち着きなよ」
「落ち着いていられる訳ないやん!!
何で俺やなくてあいつなん!?
あんなに親分のこと好き好き言うてくれてたやんかー!!」

ぎゅうっと、力強く抱き締めてくる。
驚きと戸惑いで、されるがままの私。

「いつからちょっかいかけられてたん?
どこで何でそんなことになったんか、怒らへんから詳しく教えてくれや、な?」

目が怖い。
纏う雰囲気も、どことなくヤバい。

「いつからと言われても、よくわかんないよ」
「わからん?分からんくらい前ってことなん?」
「ちが」
「名前のニブチンさん!!
男の下心には気ぃ付けぇ言うたん忘れてるんか!?」
「にぶ…?」

お前がそれを言うか!?

思わず心の中で突っ込んでしまった。
それに気づく訳もなく、彼は言葉を続ける。

「ああもうこの子は!!
こんなことになるんやったら、俺も最初から隠さんでおったら良かった!しっぱいや!!
何でよりによってあいつなんかに…!!!」

…ん?
ちょっと待って。
何かに引っ掛かり、彼の言葉を反芻。

「…ねぇ」
「なんや!」
「隠すって、何を?」
「…はっ!!」

しまった…そんな顔。
しかしその後真面目な表情になり、そしてすぐ子犬のような顔をしてみせる。
かと思えば首元まで真っ赤になった。
少し俯き、心做しか震えた声。

「…流石の俺でも、名前の言う『好き』の意味くらい気付いとったわ。
でもまだ早い、この子は自分で言うとる意味分かっとらんちゃうか、万一付き合うて、嫌い、別れる言われたら立ち直られへん。
ならずっとこのままで死ぬまで一緒に居られた方が良いんちゃうかって」

でもと言葉を切り、私と目を合わせて悲しそうな、寂しそうな顔を見せる。

「…そうやん。
こんな素敵な子ぉ、周りが放っとくわけないわ。
名前やって、誰かに全力の好意向けられたら靡くこともあるやん。
振り向いてくれん相手より、自分のこと好き言うてくれる奴といたいと思うのも当たり前やんな」

それでも。
まだ遅くないって言ってくれるなら。

「名前…大好きや。お願いやから、俺以外と一緒になるとか言わんといて…」

縋るように言われた。
私は口を開いて…逡巡。
窺うように彼を見れば、困ったような、でも優しい微笑みを浮かべてくれる。



「…何から言えば…」
「あ…ごめんな。一気に言われたら困るもんなぁ」

力なく笑い、私の旋毛に軽く唇を落とす。

「一応、親分、今、名前に…一生一緒に居てって言うたんやけど…」

そのまま喋られて、少し擽ったい。
甘えるような声色に、ちょっと意地悪したくなる。
でもきっと、このタイミングでしたらいじけてしまうだろう。…それはそれで可愛いけど。
そんなことを考えていた間の沈黙に耐えられなかったのか、彼は再び口を開く。

「なぁ…嫌なら嫌で…そんなん俺が嫌なんやけど、なんか言うてー」

耳朶を引っ張られる。

「今までごめんな…親分も昔っから名前のこと大好きやで。
こんなんなるまで言えんかった意気地無しやけど…俺と付き合うてくれやぁ」


お願いやからぁ、と更に抱き締められた。
苦しいよと言えばほんの少し、抱き締める力が弱くなる。

「…ほんとに?
ほんとに付き合ってくれるの?」

信じられなくて、聞き返す。
そうしたら、頭突きをされた。

「いでっ、ごめ、頷きたかったんやけど」

勢い余って頭突きしてもうた。
そう言って、涙目で謝ってくる。

「俺、そんな嘘つかん。
な、返事早く聞きたいんやけど」

急かされて、小さく頷いた。
途端に目を輝かせて、全力のハグ。

「やった!ほんま嬉しいわ!!」
「内臓出る…」
「あかん嬉し過ぎて締め殺すとこやった!!」


まだ離したくないけど、と解放された。
そのかわり両手を握られて、ニコニコ顔の彼に何回もキスをされる。

…う、嬉しすぎる…!!

感動を噛み締めていると、彼は渋い顔。

「せや…あいつに別れるってちゃんと言うんやで?」

親分がついとるから!!と、彼が勘違いしたままということに漸く気づいた私。


「あの…それ全部勘違い。事実無根」

おずおずと言えば。






「…へぁ?」

ポカーンとした顔。
それから、本当に嬉しそうな顔を見せて再び抱き締められた。








「誰かに手ぇ出される前でほんま良かった!!」

言い終わるのが先か、初めて唇にキスされた。


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