BLEACH

□眼鏡
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ふと我に返って、何でこんな事をしてるんだろう、と思うことがある。


目の前を動く顔は、黒縁に隠れてよく見えないものの、“隊長”と呼び慕われる彼よりは冷たく、傲慢で。でも前髪を上げ、ギンや破面達に見せる顔よりは、いささか余裕がないように見える。

言ってしまえば、“彼”らしくない。


一方、嫌悪しているはずのこの男と何故かなんやかんやしている私も私で、随分“私”らしくない。

そもそも、真実と偽りさえ判らなくしてしまう刀の前でこんな事を考えるのもおこがましい事だが。



「考え事かい?君は随分余裕があるようだ」

不意に視界の下から吐息でなく、意味のある言葉が聞こえた、次の瞬間。

「ーーっ!」

かは、と。
内臓が内側からえぐられる感覚。脳ががんがんと揺れる。
全身がふわふわして、まるでどこかへ飛んでいってしまったみたいだ。

痺れる意識の中、黒縁の向こうの目が満足そうに細められた。


「ーーっは、やっぱりそれ、なんかいや」

彼が動く度、重力に揺さぶられ、落ちたそうにしているそれを、す、と取ってみる。

何かが変わるかと。本当の藍染が見えるかと。

戯れに自らの耳の裏に引っ掛けてみると、彼の顔が眼前にあり、恐ろしいほど静かに目と目が合う。

じわりと背中と布団の間に嫌な汗を感じた。
先程までの布団が擦れる音、荒い息遣い、粘度を持った水音、それらが嘘であるかのように、静かに、ゆっくりと。
大きな手が頬から唇を一撫でする。

邪魔だな、と呟いて、それは彼の机に置かれた。


ああ、やっぱり、こっちがよく見える。


____


愛があるわけじゃない。


お互い、都合の良い時に都合の良いことができる、都合の良い相手だ。
自分の霊力で相手を潰さないでいられるから、リユーザブル。

そんな腐り切った欲望の矛先。

なぜ最愛の彼でないのか。そう思ったことがないわけではない。

でも、もう、戻れないから。


____


「ああ、起きたかい、名無しさん」

漏れ入る白い光と、ピイピイという鳥の鳴き声に目を開けた。

隣の布団はもう綺麗になくなっているが、その代わりに、昨夜から見ていた男が何やら考え事をしながら座っていた。

「……?めずらしいね、まだあなたがいるなんて」
「ああ、今日から私は死んでいるからね」
「へえ、そういうこと」

どこかで、喧騒が聞こえる。
誰かが殺されたとか、殺してないとか、殺すとか。

そしてその様子を蛇のように伺う、この霊圧は。


「わたし行かなきゃ。ギンちゃんがいる」
「おや、久々の休日の朝だ、ゆっくりできるかと思ったが。君のギンに対する愛情深さには感服するよ、そうやって赤子のように庇護しようとする行為を、愛情と呼ぶならば」

と、口の端で笑う。

嫌いだ。
何もかもを見透かしたように、心の内側をざわつかせる、この男は。

「うるさいわね、人の恋路に口を挟まないでくれる?」
「そんなつもりは無い。ただ、君が正しい方向に進めるよう手助けしたいだけだよ」
「あなたにとって都合のいい方向に、の間違いでしょ」

顔の半分を隠す長い前髪と眼鏡の野暮ったさが誠実さを演出しているのに、その中で終始薄く笑っているのだから、余計に気味が悪い。
言葉も外見も、嘘だらけ。

あれ、これって、同族嫌悪?

ギンに熱烈に愛情を示してみせ、まるで永遠の愛がそこにあるかのように振る舞って。
でも実際はこれだ。
大事なことは何一つ伝えられず、いつも藍染に逃げているのだ。


私たちは二人とも、嘘つきで、臆病で、とてもよく似ている。


「ほら、早くしないと名無しさんの大好きなギンが私の駒に斬られてしまうよ」
「ま、そんなのでやられる訳ないけど、さっさと行ってくるかな。愛しの彼に会いに」


黒い袴に白い羽織を着て、がらりと障子を開けた。


ああ、世界は今日も美しい。


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