名探偵コナン

□仕事
1ページ/2ページ


「いらっしゃいませ。誰になさいますか」


たまたま横を通りかかった背中を指し、

「じゃ、あの子にしてくれ」

と、至極無造作に言った。


____


「名無しです、よろしくお願いします」

にこ、と。まだこの仕事を始めたばかりなのに、一見さんからのご指名なんて珍しい。
だから、ホールの端からちらりと見えた真っ黒な服に合わせて、黒でざっくりと胸元の開いたドレスを選んでみた。
少しばかりのサービスのつもりだ。


「ああ」

「お隣いいですか?」

「ああ」

しかしなかなか素っ気ない。
もう少し笑顔とか、照れとか、あっていいのに。


「今回初めてのご来店ですよね」
「ああ」
「丁度今イベントがあってて。No.1の子は豪華賞品がもらえるらしいんですよ〜」
「そうか」
「……」


しまった話題を間違った。
だから何、という話だ。
何十万も使えと催促しているようではないか。
いやそれが仕事なのだが別にそういう意図で言ったわけではなく。
とりあえず別の話題だ。

「わ、わたしは新人なのでいつもは指名が全然ないんですけど、指名してくださってありがとうございまーー」

「黒か」

「は、はい?」

「服だ」

「は、はい。お客様に合わせて黒にしてみました!」


「ほォー……」


なんだろう、先程までの無表情、無関心は。

す、と灰がかった緑が細められ、頭のてっぺんから足先まで走る。
まるで、蛇に睨まれたカエルのように。頭に銃口を向けられたように。
背中を冷たいものがつたう。


「ど、どうでしょうか……。もしかして、お嫌いですか?」

「いや、むしろ好きな色だ。ただーー」



ああ、もういいか。



「嫌いな色でもある、と。黒は自分の醜い部分を隠してくれますが、それと同時に闇にも繋がっていますものね」



口角を上げる。
どこかで聞いたような台詞を、少し先回りして言ってみると、黒をまとった赤は、ニヤリと笑った。


「シャンパンタワーでも入れるか」
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ