名探偵コナン
□仕事
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「いらっしゃいませ。誰になさいますか」
たまたま横を通りかかった背中を指し、
「じゃ、あの子にしてくれ」
と、至極無造作に言った。
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「名無しです、よろしくお願いします」
にこ、と。まだこの仕事を始めたばかりなのに、一見さんからのご指名なんて珍しい。
だから、ホールの端からちらりと見えた真っ黒な服に合わせて、黒でざっくりと胸元の開いたドレスを選んでみた。
少しばかりのサービスのつもりだ。
「ああ」
「お隣いいですか?」
「ああ」
しかしなかなか素っ気ない。
もう少し笑顔とか、照れとか、あっていいのに。
「今回初めてのご来店ですよね」
「ああ」
「丁度今イベントがあってて。No.1の子は豪華賞品がもらえるらしいんですよ〜」
「そうか」
「……」
しまった話題を間違った。
だから何、という話だ。
何十万も使えと催促しているようではないか。
いやそれが仕事なのだが別にそういう意図で言ったわけではなく。
とりあえず別の話題だ。
「わ、わたしは新人なのでいつもは指名が全然ないんですけど、指名してくださってありがとうございまーー」
「黒か」
「は、はい?」
「服だ」
「は、はい。お客様に合わせて黒にしてみました!」
「ほォー……」
なんだろう、先程までの無表情、無関心は。
す、と灰がかった緑が細められ、頭のてっぺんから足先まで走る。
まるで、蛇に睨まれたカエルのように。頭に銃口を向けられたように。
背中を冷たいものがつたう。
「ど、どうでしょうか……。もしかして、お嫌いですか?」
「いや、むしろ好きな色だ。ただーー」
ああ、もういいか。
「嫌いな色でもある、と。黒は自分の醜い部分を隠してくれますが、それと同時に闇にも繋がっていますものね」
口角を上げる。
どこかで聞いたような台詞を、少し先回りして言ってみると、黒をまとった赤は、ニヤリと笑った。
「シャンパンタワーでも入れるか」