きみとふたりきり

□きみとふたりきり
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男の子はじーっと私を上から下まで見つめる。
きっと私のこの大きな羽と、不思議色の髪に人間の出で立ちを、どこにも見ることがないから不思議がっているのだろう。

「ふふ、はじめまして。私は***。吸血鬼なの」
「吸血鬼!ホンモノの吸血鬼なのか!?」
「う、うん」

どうやら男の子は吸血鬼に興味津々の様子だ。
どういう原理かはわからないが、普段見えない目がキラキラ輝いている。
おそらく父親のキングさんの影響だろう。
キングさんは吸血鬼のファンだと、ルーが言っていたはず。
男の子はしばらくキラキラした目で私を見つめたあと、腰に手を当てて得意げに鼻を鳴らした。

「僕様はランサー!パパ上から吸血鬼のこと、たくさんきいてるのだ!」

ふふん、となぜか誇らしげにするランサーは、とても可愛らしい。
自分の顔がだらしなく緩む感覚がする。

「僕様は物知り!」
「ふふふ、すごいねぇ…これからもいろんなこと教えてほしいな。よろしくね、ランサー」
「えっへん!よろしくなのだ!」

手を差し出すと、ランサーはニコニコ笑いながらぎゅっと手を握り締めてきた。
しばらくは、ランサーの頭の帽子のようなものは実はこういうヘアスタイルなのだとか、
バイクに乗れないから火のついた自転車を乗り回してるだとか、ランサー自身についての面白い話をたくさん演説してくれた。
そうして嵐のようにやってきたランサーは嵐のように去っていき、唐突に部屋が沈黙に包まれる。

「あれ、なんでだろ…」

ふいに涙が流れる。ここに来てから泣いてばっかりだな…ずっと何年も何百年も…一人ぼっちでいた私。
そんな私にたくさん知り合いがや家族ができた。
この出来事はこの長い長い私の歴史上で、どんなものにも代えがたい、失いたくない…一番幸せな日だ。
…そう思うと、溢れる涙を止めることはできなかった。
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