きみとふたりきり
□きみとふたりきり
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「ん…」
ふかふかで暖かな毛布に包まれる感覚と、優しく甘い香りにホッとした気持ちで身じろぎする。
あともうちょっと寝かせて…すごく今気持ち良くて…
「お目覚めか?」
「!」
はっと飛び起きて視界に入ってきたのは青みがかった白く長い髪を後ろで束ねている、全体的に線の細い男性。
彼は青ざめる私を安心させるようにニッコリと微笑みかけてきた。
その麗しいお顔付きとやさし気な雰囲気に、ついすべてを忘れて魅入ってしまう。
男性が「?」といった表情をしてところで慌てて我に返った。
「余はルールノー・カァドー。ここ、カルタス城の警備をしているユエ、そなたを見つけたのだ」
「カルタス城…」
世界中を何百年も旅してきたが、そんな城は聞いたことがなかった。
「ここはなんという国ですか?」
「国…?此処に国などない。我が王がこのダークワールドを統治しておられる」
「…そうなんですね」
ニコ、と微笑みかけるも、内心気が気ではなかった。
確かにルールノーさん…彼は人間のようには見えないし、窓の外も異常なほど暗く、人間界ではない要素はそこらかしこにある。
ここにいてもいいのか、元いた世界に帰るべきか…しばし頭を悩ませた。
ぼーっと黙り込む私に何も言わず、ルールノーさんは気を使って紅茶を入れ始めた。
しばらくして落ち着きを取り戻し、ゆったりと構えているルールノーさんに向き直る。
「あの…」
「少しは落ち着いたか?」
「はい…拾っていただいて、ありがとうございました。私は吸血鬼の***です」
「やはりそうであったか。王がさぞお喜びであった」
「へ?」
思わぬ返答に素っ頓狂な声が出た。
恥ずかしくて口を押えるも、ルールノーさんはウインクしてそれを交わしてくれた。
「王は吸血鬼のフアンなるものなのだ。このダークワールドでも吸血鬼は滅多に存在しない。ユエ、王は娘としてそなたを育てたいとのこと」
「そ、そんな…いいんですか?」
突然の出来事に頭が追い付かない。
吸血鬼になって、両親からも…周りの人間全てから見放されてきた私にとって、その申し出は嬉しいこと以外の何物でもないのだ。
両親を追い込んでしまったのは私であっても、そんな大切な両親に捨てられる運命には、やはり耐え難い悲しみがあった。
何をしても死ぬことができず、生きることを余儀なくされる。
たとえ疲労で倒れても塵になれば再び蘇り、同じ記憶と悲しみを背負って生き続ける…それが吸血鬼の定めなのだ。
母も父も、もう何百年も前に死んでしまった。
その最後すら見届けることが叶わなかった…。
「っ…」
ふいにじんわりと目頭が熱くなり、力を抜けば涙がこぼれ落ちそうになってしまった。
そんな私の心情を汲み取ってか、ルールノーさんは優しく私の頭をなでる。
「王は寛大なお方だ。安心成され」
「はい…」
「しばらく何も口にできていないであろう?しばし待たれよ」
そう言ってルールノーさんはそそくさと立ち去り、数分後あたたかいスープを持ってきてくれた。
この顔といい、仕草や所作、女性の扱い方…すべてが優しさとロマンに溢れている。
こりゃ女性がほっとかないだろう。
スープを口に着けると、彼のような優しい味わいが口いっぱいに広がった。
「ルールノーさん、本当にありがとう…」
ニッコリと微笑むと、彼も嬉しそうに笑う。
「ルーとお呼びくだされ」
「…ルー、ありがとう…」