きみとふたりきり

□きみとふたりきり
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コツ…コツ…



もう随分と長い間、歩き続けている。
靴の底が剥げて雨がそこから入り込み、異臭を放つ足と身体。
みっともない姿であることは自分が一番よくわかっていた。
歩いても歩いてもこの旅は終わらない。
なぜなら目的地もゴールも、終点もないのだ、この旅には。
私はただひたすら、生きるために歩き続ける。
背中の羽は、疲れ切ってもはや使い物にはならないお荷物になってしまっていた。

「…っ」

体中が痛む。さすがに何も口にせず何週間も歩き続けるのには無理があったようだ。
目の前がぐらぐらと歪んで、視界が徐々にぼやけて意識が遠のく感覚がする。
ああ、今日の寝床を早く見つけなくては…
早く…。

「あ…」


まずい、と思ったころには時既に遅し、と言ったところか。
世界が反転すると同時に、自身の身体が地面にたたきつけられる。
そこでようやく、自分が疲労と栄養失調で倒れこんでしまった…つまり絶体絶命の状況であることを理解したのだった。
地面に頬を寄せる。ひんやりとした冷たさが頬を刺激して、火照った身体を冷ましていく。

「…お父さん、お母さん…」

迷惑かけてごめんなさい。
私が吸血鬼に襲われさえしなければ、二人が追いつめられることも、娘を失うことにもならなかったのに…。
このまま、何も感じない人生を繰り返すしかないのかな、私。
そう思うと、とめどなく涙があふれてくる。

「…ははっ」

私、泣いてるんだ。辛くて苦しくて泣いている。
本当は少しでも、この人生に幸せを見出したいのね。
でももう、取り返しのつかないところまで来てしまった。
私は死ぬこともできず生きることもできない。

「ここで何度も死ぬのも……悪くないか…誰にも会わずに…」

なんどか死を覚悟して自殺をしたり餓死したりと試してみたことはあった。
しかし何をしても私は死ぬことはなく、何度も同じ地に蘇る。
観念していつものように目を閉じる。
と、突如何かが近づいてくる気配を感じ取った。
それは足音で、人間が近くにいることを示していた。
もしかしたら、運命の出会いかな…なんて。
そんなひとさじの希望を抱きながらも、体は言うことを聞かない状態になっていた。

プツリ、

そこで私の記憶は途切れたのだった。
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