おはなし。短編&シリーズ*
□沈む。
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ドリムと127の活動を並行している俺は自分で言うのもなんだが結構、いやかなり多忙な毎日を送っている。それはすごくありがたい事だ。だが同時に、俺はマクヒョンの面倒も並行させなければいけない。あっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返してる俺はなかなか宿舎に戻ることもできず恋人の様子を目で見ることがあんまりできないのだ。あれでいてマクヒョンは繊細人間だ。完璧主義だし。だからちょっとした事、ちょっとした時にその完璧が崩れ落ちる。しかもなんの前触れもなく。そんな時に俺ができるのはそばにいて涙を拭いてあげること。まるで赤ちゃんをあやすように。甘えてくる彼を存分に甘やかす。マクヒョンがかなりの多忙だった時期、俺はわざわざ国外まで会いに行ってそれを成したほどには彼に惚れている。
携帯をタップすれば夜中2時。あと3時間後にはまたドリムでの撮影があるがわざわざ宿舎に戻ってきてみた。なんとなく俺の勘がマクヒョン危険、を知らせてくる。玄関を潜れば部屋は真っ暗で、もうメンバーは各々部屋にいるだろう。マクヒョンの部屋の前まで来てノックをする。返事はないが躊躇いなくその扉を開けた。ベッドには誰もいない。椅子にも座ってない。嫌な予感がした。部屋を足早にでて向かう先はシャワー室。シャワー室に続くドアを開けると中からぽたぽたと音がした。
「マクヒョン、いるの?」
返事はない。とりあえず荷物や濡れたら困るものを全て床に投げ捨て、シャワー室の扉をあけると湯船に浸かっている黒い影が見えた。目が慣れない為手探りで影に手を伸ばす。撫でればその輪郭は恋人で間違いなかった。頬に触れ、なんとなくの感覚で顔をこちらに向かせ口付ける。触れた先はちょうど唇だった。
「ん、ドンヒョガ…?」
「そう、ドンヒョク。」
「なんでここにいんの。」
少しずつ目が慣れ、目の前の恋人の目をじっくり見つめる。不安、悲しい、しんどい、辛い、そんな感情だろうか。とりあえず服を着たまま同じように湯船に入り込む。
「冷た!なにこれ、冷た!」
「うるさいな。お湯出せばいいじゃん。」
気怠げに蛇口を捻りお湯を出し始める彼も服を着たまま湯船に入ったようだ。彼はでようともせず、また湯船に顎まで沈み出す。
「こっちおいでよヒョン。」
「お前がこっちこいよ。」
いいよ、ヒョンが望むなら俺がそっちに行こうか。なんて。そのままマクヒョンに覆い被さるように頭ごと抱きしめてやる。ほんとに、冷たい。体温どこにやったんだよ。
「マークヤぁ。なにしてるの〜。」
「お風呂入ってる。」
「お風呂って、こんな水風呂入ったらダメでしょ。」
「勝手に水になった。」
俺の首元でもごもごと話すヒョンは可愛い。可愛いけど、これじゃほんとに風邪ひくだろう。暗闇にだいぶ目が慣れ、顔をずらして表情を伺う。ほんとに赤ちゃんみたいだ。濡れた髪をかきあげて、目鼻口へと順序よく軽くキスしてやれば満足気に目を細めてくる。
「お前、なんでここにいるの?」
「俺のマクヒョンセンサーが働いた。」
"なんだそれ"と言いながらも嬉しそうだ。わりとこういうとき、マクヒョンは水気のある場所を好む。前になんで水なのと聞けば、泣いても水があるから誤魔化せると言っていた。別に誤魔化さなくても俺がいる時は拭いてあげるのにとも言った気がする。
「来ると思わなくて、風呂入っちゃったよ俺。」
「残念でした。だてにヒョンの恋人やってないんでね。」
「忙しいだろ。」
「うん。でも恋人のケアするのも俺の役目だし俺しかできないし、てか俺以外にされても困るし?」
「…ばかじゃん。」
馬鹿だと、なんて思っているとグズグズと赤ちゃんがぐずり出す。
「泣いていいよ。俺がいるから。」
なんて言えば首元に腕を絡めて声を抑えながら泣き始める。そんな恋人に俺はただ黙って頭を撫で、目元の涙を拭ってやった。
「ヒョン、大丈夫だよ。何が不安なの。」
「っ、ぜんぶ。」
「そっかそっか。全部か。じゃあ俺が全部貰ってあげる。」
「おまえの、っことも心配だしっ…」
「ありがとね、でも大丈夫。ヒョンがいるからね。」
「お前倒れたら、とか…」
「あ〜骨折とかね。」
「バカやめろ、」
「あ、ごめん。」
ギューッと抱きついてくる恋人は悩み事が沢山あるようだ。俺のことも心配で仕方ないみたいだが、あいにくドリムのメンバー達も並行している仕事に関して理解をかなりしてくれているのでたくさんカバーしてくれている。それは127のヒョン達にもいえることだ。
「俺結構みんなに大事にされてるから平気。」
「……。」
「え、違った?」
そう言うと腕の力を緩めたマクヒョンがじっとこちらを見つめてくる。あ、やばいなと思った。完全に堕ちてる。俺としたことが返答を間違ったみたいだ。
「お前が、」
「うん。」
「俺だけのになるのはいつ?」
「そんなの、今もそうじゃん。」
「違う。」
このヒョンは、俺を自分だけのモノにしたい欲が付き合ってからちょくちょくあるのだ。メンバーにもファンにもあげたくないイ・ドンヒョクがあるらしい。こんな風に接する俺も優しくキスをする俺もヒョンに溺れながらセックスする俺も目の前の恋人しか知らないことなのにそれでは満足できないらしい。
「マクヒョンしか知らない俺はたくさんあるのに満足できない?」
「できない。」
至って真剣だと言わんばかりの表情で返されると少し困ってしまう。こうならないようにいつも言葉を選んできたつもりだがたまに外してしまうのだ。
困ったなあなんて実際はそんなに思ってはいないけどどうやってこの場を収めようかと頭をフル回転させる。
「じゃあ、どうしようか?」
「全部ちょうだい。」
「もうあげてるのに。」
「足りない。」
そう言った恋人の唇を自分の唇で塞ぐ。そしてヒョンの足を自分の足で払い、そのまま水の中にキスをしたまま沈み込む。驚きもビクリともしないヒョンは成すままだ。水中で互いに目を開き見つめ合う。コポコポと唇から空気が抜けていくのがわかる。俺と違って肺活量の少ないヒョンはもう苦しいはずだ。それでも目は細くなっていて、もう死んでもいいなんて表情をしている。ふと、ユタヒョンが言っていた日本の言葉遊びを思い出した。愛していますを月が綺麗だと例え、その返事を死んでもいいが最上級の返し言葉と考えたひとがいたらしい。あれ?俺、ヒョンに愛してるって今言ってないな。それはダメだなあ。風情も愛もあったもんじゃない。それこそこのヒョンには間違った行動だろう。1人だけ幸せになって死んでいくなんてそんなの1番嫌いだろ?マクヒョン。そう思った時にはヒョンの頭を抱え、水から顔を出していた。
「はあ、はあ…っ、はあ、」
「は、なんで、」
「、ヒョンに、愛してるって言うの忘れた…っはぁ。」
互いにびちゃびちゃで息もあがっている。傍からみたらなにをやってるんだと言われるだろう。
「ヒョン、だめだよ自分だけもう死んでもいいなんて。ちゃんと俺からの愛してるを聞いてからじゃないと。」
そしてユタヒョンに教えてもらった言葉遊びを教えてやる。みればマクヒョンはすごく嬉しそうに笑っていた。ぎゅっと抱きついて肩に頭を預けてくる。その頭を撫でてやり、すっかり水から湯に温度があがった風呂から"でよう"といってあがった。濡れた服を洗濯機に投げ入れ、バスタオルにくるまる。自分の身体を拭き終え、肩にタオルをかけるとくるまったままのマクヒョンをお姫様抱っこで抱き上げた。素直に腕を回してくる恋人を抱え、ヒョンの部屋へと少し足早にむかう。抱っこされてるマクヒョンは先程から鎖骨あたりにちゅっと吸い付いてくる。扉をあけ、ベッドに優しくおいてやれば"んっ"と可愛らしく両腕を伸ばしてきた。その腕を掴んで身体にのしかかる。
「ヒョン、愛してる。」
「死んでもいい。」
「まだダメ。」
薄く開いた唇に口付け舌をいれてやれば簡単に受け入れられる。ぐちゅりと音がなり続けるがキスをする唇は互いにとめない。ちらっと部屋にある時計をみれば、次の集合まであと1時間半だ。
「マクヒョン、あと1時間半あるよ。」
「ん、なにすんの?」
「そんなの…」
"愛し合うに決まってるじゃん"そういえば目の前のヒョンは可愛らしさとイヤらしさを混ぜ込んだ顔で笑った。
「ねえ、抱かせて。」
「しかたないな。」
交わす言葉は少なくして、目の前の唇に貪りついた。ああ、1時間半後の俺は死にそうになってるんだろうとか。マクヒョンも足腰立たなくなってるんだろうとか。ユタヒョンほんとナイスとか。いろいろと考えは巡ったが甘く喘ぐ目の前の恋人に残りの思考はすべてもってかれた。目にはもう闇ではなく、俺しか映っていなかった。