おはなし。短編&シリーズ*
□だいがくせいのにちじょう。1
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目が覚めたら朝の9時だった。今日は午後から授業がある。それまでにゼミ室で研究課題をやろうと思っていたのだ。本音を言えばあと1時間早く起きたかった。とりあえずさっさと準備して学校へ向かおうと手早く準備をして家を出た。
ノックをしてゼミ室に入ると何人か先客がいるのが見える。主に先輩方だ。一番端の席に座りノートパソコンと分厚い教材を机に広げた。とりあえずあと3時間は没頭できる。スマフォでアラームを設定して作業を進めた。しばらくすると隣に誰かが座ったのが雰囲気でわかる。顔を上げればそこには銀髪の同級生。
「お、イ・ドンヒョク。」
「おはよ〜。」
目の前の男はそれはもう気怠げに挨拶を返してきた。銀髪に、眉と耳に光るピアス、黒い薄手のブラウスに白のスキニー姿のそいつは誰がみてもチャラいと感じるだろう。実際俺もそう思った。
「珍しい、こんな時間にいるなんて。」
「そろそろゼミの研究課題やんなきゃなーって思ってさあ。」
そう言いながらカバンからノートパソコンと、俺とお揃いの分厚い教材を机に出す。ドンヒョクと俺は同じゼミだ。しかもかわっているのがこの大学、ゼミは成績で決められたりする。そんでもって俺とこいつのゼミは経済学部の中で1番成績がいいグループに属するのだ。同じ学年の生徒はこのゼミに10人しかいない。ちなみにドンヒョクは新入生代表の挨拶をする特待生だったりする。人は見かけにはよらないことを俺はこいつで学んだ。
「同じく。あと1週間だもんな。」
「前半はやってあんだけどさ〜後半の中身が薄すぎて寒気すんだよね。てか眠いな、コーヒー買ってくるわ。お前飲む?」
「美味しいの買ってきて。」
任せろといってドンヒョクはゼミ室から出ていった。それを見送って作業を進めていると机に袋がドサッと置かれる。
「アイスカフェオレ2つ〜。チョコ〜。以上!!」
「サンキュ。」
アイスカフェオレを2人でちまちまと飲みながらそこからはお互い無言で作業に没頭した。そしてアラームの音がなり3時間が経ったことがわかる。もうちょっとで終わるがまあそれは明日やろう。隣を見ると真剣に教材をみつめているドンヒョクが目に入る。
「俺つぎ講義あるから行くわ。」
「ん。」
「てかお前もだろ。」
「ん。」
集中しているドンヒョクに話しかけるということはそれなりの理由がないと怒られたりする。意外と面倒くさいのだ。頭が良すぎて。とりあえず授業に出るために席を立った。
講義室につき席につくと後ろから"おい"と声が聴こえる。
「お前一緒の授業なんだからさ、教えてくれても良くね?」
「俺はちゃんと声かけたぞ。」
「うっそだー!!!」
ほんとだよ、と言いながら横の椅子に置いていたカバンをどけるとそこにドンヒョクは座った。
「あ、そういえば…」
「なんですか〜。」
「今度ゼミの飲み会やるらしいけど、お前参加しないの?」
「バイトあるし行かなーい。」
なんだかんだと理由が重なりこいつはゼミの飲み会に参加したことが1度もなかった。大体はバイトが理由だが。もうすぐ夏になるというのにまだ1度も参加していない。社交性がないわけじゃないし、むしろその頭の良さから先輩達にもアドバイスを求められたりと距離があるわけでもない。かといって俺も特に理由は聞いたりしなかった。
「バイトなら仕方ないか。」
「そ。仕方ないのー。」
ズズっと少し下品な音をだしてカフェオレを飲み終えたドンヒョクはスマフォをいじり出した。
「あ!」
「ん?」
「なー、こんどの土曜日飲みに行かね?」
「いいけど…他誰か呼ぶ?」
「え、いい。いらないいらない。」
胸の前でナイナイ、と手を振りながら"2人で飲もうぜ"と女が惚れそうな笑顔で言われた。
「男2人で飲むとか…」
「いいじゃん。俺、気許した奴しかプライベートいれたくないんだよね。女なんて論外。」
さっきとは打って変わって真面目な顔でそう話すドンヒョクに少しびっくりした。俺には気を許してたのか、なんて。まあ確かに変わった奴ではあるが悪い奴じゃないのは確信していた。それにこいつとプライベートで会うのはこれが初めてになる。連絡先こそ知っているが基本的にカトクをし合うわけでもなかったし学校以外で会うことなんてなかった。
「いいよ、じゃ次の土曜日な。」
「やったね。土日が久しぶりに休みでさ。」
「お前なんのバイトしてんの?」
「ん?BARだよ。」
BARか、BARなら土日の休みは貴重かなんて思ったがその貴重な休みの相手が俺でいいのか。というかBARか。無駄に似合うな、なんて考えていた俺の沈黙をどう受け取ったのかドンヒョクはスマフォを置いてこちらを見つめる。
「なに?」
「いやいや、こっちのセリフ!」
「え、なにが?」
「何考えてんのー??」
「貴重な土日休みなのに過ごす相手俺でいいわけ?とか、BARとか無駄に似合うな。とか?」
そう素直にいえば目をぱちぱちとさせながら笑った。何そういう感じ?と言いながら。
「どういう感じだよ。」
「いや、ほんと俺お前のこと好きだわ〜。」
笑いながらそう言って近くなったら連絡するわ、と教室に教授が入ってきた為話は終わった。