おはなし。短編&シリーズ*

□だいがくせいのにちじょう。1
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ドンヒョクの部屋は、シンプルだった。色は黒を基本にしたインテリアで形成されている。リビングのソファーに座ったドンヒョクに手招きをされ、隣に座った。

「水いる?」

「いや、だいじょうぶ。」

「気持ち悪くない?」

「ない。」

「マーク、酔ってる?」

「ちょっとな。いしきはある。」

よかった、そう言うと肩に手を回される。顔が目の前にきた。綺麗な顔だった。綺麗な二重、綺麗な眉毛、綺麗な鼻、綺麗な口。全部が綺麗だった。眉にあるピアスを改めてみつめるとゾクッと背中に何かが走る。

「女よりお前に興味あるって言ったじゃん?」

「いってたな。」

「わりと本気で、興味あるんだけど。」

「よくわかんないけどきになることあるならおしえてやる。」

「うん。ねえ、俺お前のこと結構好きなんだよね。」

「それはどうも。」

「ぶっちゃけね、このまま抱いてやろうかなって思ったりもしたんだけど。」

「だっこすんの?」

「いやその抱くじゃなくて。セックスの方。」

「せっ!?!?」

びっくりしすぎて酔いが覚めた気がした。セックスっていったか?目の前のこいつは。俺と?セックス?驚きすぎて身体が仰け反る。その反応にドンヒョクは肩から手を離した。

「ちょ、たんま。」

「おっけー。たんまね。」

「おま、お前大丈夫か?!」

「俺?めっちゃ大丈夫、酔ってもないしめっちゃ真面目。」

「ああ、そうか、ならいい。いや、よくないな?」

「ははっ、混乱してんの?」

「いや混乱するわ、するだろ。」

するとまた肩に手が回される。顔と顔は0距離に近い。

「これ、嫌じゃないでしょ。」

「や、うん、いやじゃないけど、」

「じゃあこれは?」

ちゅっと鼻にキスをされた。突然のことにポカンとしていると次は唇にちゅっとキスをされる。軽いバードキスから、だんだん重たくて意味のあるキスへ変わっていくのが伝わった。これがまた不思議と嫌じゃなくて俺も戸惑ってしまう。

「ん、おい、待て落ち着け、」

「はぁ、うん俺落ち着いてる。」

「嘘つけ。」

「ごめん嘘ついた、欲情したわ。」

そう言うとまた唇にキスが落とされる。ぐちゅりと舌が差し込まれ、気持ちよさに思考が停止しそうになったが我にかえってドンヒョクの胸板を叩く。

「はっ、ドンヒョク、ストップ!」

「……止まった。」

こういうところに互いの真面目さが出て思わず吹き出してしまった。完全にムードを壊したってやつだった。

「ね〜マークヤ、今ので雰囲気壊れたよ?」

「ははっ、ほんとにな。」

「まあ俺も流したいわけじゃないからいいんだけどさ。」

「うん?」

「ハッキリ言うけど…ゼミでお前のこと見て話して、お前の性格とか考え方とか知って、まあその。好きになったらしいんだよね。」

「らしいって…」

「好きになったらしい。俺。お前のこと。」

「うん。」

「俺別に元々男が好きとかじゃないんだけど、てか恋愛とかも煩わしくてしてこなかったんだけどさ。」

「うん…」

「なんかお前のこと好きになったらしいわ。」

眉を下げて少し困ったようにドンヒョクは言った。俺は正直、男にキスされても嫌悪感がなかったことに驚いていた。恋愛をしてこなかったわけじゃない。することもしてきた。それなのになんで拒まないんだろうか。気づけば銀色の髪がよく目につくようになって、隣に座るドンヒョクに居心地の良さを感じて、キスも嫌じゃなくて。

「俺お前のこと好きなのかな?」

「え!俺に聞くの?!」

「いやなんか色々考えてたら、お前のこと好きだからじゃないのってことがちょくちょくある。」

「わ〜お。それはそれでびっくりだけど。」

「なんだこれ難しいテーマだな。」

「やめて、課題みたいにしないで!」

こういう所が、ウマが合うっていうんだろう。根本が互いに真面目だ。だからこそ成り立つ会話もたくさんしてきた。

「それで、お前はその煩わしい恋愛をしようと思ってんの?」

「急に戻るじゃん。まあ、うん。お前がいいよっていうなら?」

「当たり前のこというけど、俺男だよ。」

「俺も男。」

「女との恋愛さえ煩わしく思ってたのに、男との恋愛なんてもっと複雑だと思うんだけど。そのへんどうなの?」

「俺頭いいじゃん。」

「急だな。」

「うん、急なんだけど。」

「それで?」

「頭いいじゃん?そんな俺がさ、何も覚悟せずにお前を飲みに誘ったと思う?」

「ん〜。たしかに。うんうん。続けて。」

「覚悟なんてとっくにしてんの。それに恋愛のほうの好きはお前が初めて。初恋。」

「うん。」

「貰ってよ。俺の初恋。」

そう言ったドンヒョクの顔は、初めて見る表情だった。勉強に集中するときの顔とは違う、また別の真剣な表情をしていた。あ、本気なんだと思った。これでも俺は、頭が良い方だ。ドンヒョクには劣るが。数学の公式のようにドンヒョクへの気持ちを当てはめていく。数学は答えが必ず1つだ。

「いいよ。俺がお前の初恋貰う。そのかわり、」

"ちゃんと愛さなかったら0を乗算するから"と伝えれば、

「大丈夫、乗算すんのは100だけだから。」

なんて返された。たぶんこんな意味のわからない会話をするのは俺達くらいだろうと思う。互いに顔を見合わせて笑った。


「とりあえず寝ない?」

「ベッド行こうか。」

身体をお姫様抱っこのようにもたれ、反射で首に腕をまわす。ゆっくりベッドに降ろされた。

「お前、力凄いな…」

「マークが軽いだけ。」

掛け布団を2人で被り、天井をみつめる。

「お前を悲しくさせないように俺は最大限の努力をするよ。」

ドンヒョクはそう言うと"おやすみ"と呟いた。そして次の日の朝、目が覚めると俺の腕の中にドンヒョクが丸まっている。赤ちゃんみたいだという言葉は飲み込んだ。


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