短編

□星の贈り物
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ジャラリ‥と手の中で乾いた音を立てたのは、氷輪丸を背負う為の鎖。

今までは鎖ではなく肩紐を使っていた為、聴き慣れないその音は少し、重く感じた。

「あら、隊長!髪形変えたんですか??肩紐も、別のやつに変えたんですね」

控えめなノックの後。
隊主室へと入って来たのは、副隊長の乱菊だった。
彼女は日番谷を確認すると驚いた様に目を見開いたが、すぐに目元を和らげ優しく微笑んだ。

「ああ。少し、初心に戻ろうと思ってな。‥似合うか??」

「ふふ‥。とてもお似合いですよ。なんだか角が取れた様な感じで。私は、そちらの方がお似合いだと思います」

乱菊のその言葉の通り、これまでは威圧的な雰囲気を出す為に逆立せていた銀髪は下され、少年らしさの残る顔立ちに良く似合っていた。

そんな彼女の言葉に嬉しそうに小さく微笑んだ日番谷は、机の上に置かれた緑色の布に手を伸ばす。

その布は、今まで氷輪丸の肩紐として使っていた物で。
真ん中にあった星形の留め具を外したそれは、今ではただの一枚の布となっていた。

「そちらは、どうされますか?こちらで処分しておきましょうか??」

日番谷の手の中にある一枚の布に気が付いた乱菊が、そう彼に声をかける。

長いこと使っていた為か、既に両の先端がボロボロになってしまっているその布の使い道は、乱菊には思い付かなかった。

しかし、日番谷はその布を大事に。
優しく、胸元へと引き寄せた。

「‥いや。これは、大切な贈り物なんだ。とても大事な‥」













ー‥あれは、俺がまだ院生時代の頃。
もう遥か昔の、遠い日の記憶ーー




















ー星の贈り物ー















「はぁ!!」

「たぁ!!」

力強い掛け声と共に、周りに居る擬似虚達を切り倒していく。
次々と溢れ出してくる虚達に、日番谷は手に持った浅打を構えた。
そんな日番谷の背中に、トンっと暖かな軽い衝撃が加わる。

「草冠。そっちは、まかせたぞ」

「ああ。冬獅郎も、後ろは任せたぞ!」

背中合わせで立つ、親友の草冠にそう言葉を投げかければ。
自信あり気に、明るい返事が返ってきた。

そんな声に、思わず日番谷も笑みを漏らす。

後ろは、大丈夫。
誰よりも信頼できる、あいつが居るから。
二人一緒なら、怖い物なんてないのだ。








霊術院生の、擬似虚の討伐訓練。
浅打を使ったその特別な訓練は、院生にとっては非常に難易度の高い物であった。

ー‥ある、二人の天才以外には。








「もう終わりかぁ。冬獅郎何体倒した??」

「54.5体ぐらいだな。草冠は?」

「俺は50体だったよ」

また俺の負けか〜!と、そう叫び。
ごろりと勢いよく地面に寝そべった草冠。
そのまま彼は、日番谷の腰に差されている浅打に視線を向けた。

「‥ずっと思っていたんだが。君は、ソレを腰に差すより背負った方が良いと思うんだよね」

ソレ。と、草冠は日番谷の腰にある浅打を指差す。

「‥背中に、か??」

「そう。君の場合刀を背負って戦った方が、より効率的な戦い方ができると思うんだ」

それに‥と、彼は言葉を続ける。

「浅打の大きさなら、冬獅郎が腰に差しても問題ないと思うけれど。斬魄刀は厳しいかもしれないよ」

それは暗に、身長が低い事を指摘されているのではあるが。
確かに浅打とは違い、斬魄刀となればその形状も長さも大きく変わってくる。

草冠の言う通り、背負うスタイルの方が自分にはあっているのかもしれなかった。

「そうだ!!冬獅郎。この後、少し付き合ってくれ!見に行きたい店があるんだ!」

何かを閃いたのか、瞳を輝かせて急に飛び起きた草冠。
そんな彼の言葉に、日番谷は戸惑いながらも頷いた。







******









「冬獅郎。手、出して」

「‥?どうしたんだ、それ?」



草冠に連れられた日番谷がやって来たのは、流魂街の外れにある、とある小さな骨薫品店だった。
店内にて何かを探している友人を横目に、日番谷も入り口付近に置かれている様々な骨薫品を眺めていた。

様々な装飾品や食器などが置かれるその店には、ちらほらと客と思われる死神の姿も見受けられ。

そんな店内の様子を眺めていた日番谷の元に、小さな小包を手に持った草冠が戻って来たのだった。


「俺から君への、贈り物だよ。気に入ってくれたら嬉しいな」

草冠に言われた通り、戸惑いながらも手を差し出した日番谷。
その手のひらに、彼はその小包をそっと手渡した。

「‥‥俺に??」

思いもしていなかった友人からのその贈り物に、驚いた日番谷はその大きな瞳を更に見開いて、目の前の青年を見上げた。

「そうだよ。冬獅郎、開けてみて」

笑顔でそう話す草冠から小包へと視線を移した日番谷は、言われた通りに小包を開いていく。
子供の両の手のひらよりも大きいその包みは、意外にも軽く。
ある一点だけが、重石でも入っているのか、ずしり。と重みがあった。

その包みから出て来た、ある物。
それは、緑色の一枚の布と。
銀色に輝く、星形の小さな留め具だった。

「草冠、これって!」

「その布と留め具はね、斬魄刀を背負う時の肩紐として使えるんだ。君が死神になって自分の斬魄刀を手に入れた時、それを使って欲しいなって」

それは、友人である草冠からの。
そして、今まで友人の居なかった日番谷が人生で初めて貰った、初めての贈り物だった。


「君に、似合う色だと思ったんだ」

「草冠、ありがとう。俺、凄い嬉しい」

照れくさそうにそう話す友人に。
日番谷も、照れくさそうに。
そしてとても嬉しそうに、そう答えた。










******





「‥隊長??」


急に黙り込んだ日番谷。
そんな彼を心配気に見つめる乱菊のその声に、日番谷の意識は現実へと引き戻された。

「‥ああ。これは、親友から貰った。大切な贈り物なんだ。大切な」

時が経った今でも、あの日の記憶は色褪せる事なく残っている。

ー‥ありがとう、と。
その贈り物を手に、笑顔でそう伝えた時の、友人のあの嬉しそうな表情。
大切な親友のあの笑顔は、今でもはっきりと思い出せる。

「‥大切な思い出なんだ」

瞳を閉じながら、親友の贈り物を手に優しく微笑む己の上司に。
同じく優しく微笑んだ乱菊は、そっと日番谷の側へと歩み寄った。

「たいちょっ。ちょっとソレ、貸して下さい!」

そう言い日番谷の手から緑色の布を受け取ると、彼女はそれを日番谷の首元に。
マフラーの様にそっと巻き付けた。

「うふふ。とても良くお似合いですよ!前よりも、もっと男前になりました!」

「‥松本、ありがとう」

乱菊のその優しい気遣いに、日番谷が小さく微笑みながらそう告げる。
その言葉と同時に、隊主室の窓から一匹の地獄蝶が現れた。

己の手の甲に舞い降りた地獄蝶からの伝言を聞き届けた日番谷が、すっと席を立つ。

「総隊長より、緊急招集だ。行くぞ松本」

「はい、隊長!」

そう告げ、隊主室を後にした日番谷の。
首元に巻かれた緑が、風に靡いてひらりと翻った。









ー‥これは昔、俺が死神になる前に。
親友から貰った大切な贈り物。

時が経って、ボロボロになっても。
それは、捨てる事なんて絶対に出来ない、大切な物。











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