短編

□Gypsophila
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ーー尸魂界では、必ず七夕の日の夜は晴れになる。

何故なのか。
その理由は‥ーー


















ーーリリ‥ーー


すっかり日の落ちた暗闇の中、聴こえるのは鈴虫達の涼しげな音色。
穏やかな風が吹き抜け、聴こえる木々のざわめきの中に響く鈴虫の音色の中に、小さな子供の話し声が微かに聞こえてきた。


「シロちゃん‥真っ暗で怖いよぉ〜‥」

「別に怖くないだろ‥。灯だってあるじゃねぇか」

森の中を歩く二人の子供。
深緑の着流しを見に纏った銀色の髪の子供の後ろを、桃色の着物を着た少女が泣きながら追いかけていた。

銀色の髪の子供はため息をつくと、隣で半泣きで自分を見下ろす少女に、手に持った提灯を差し出した。

「‥そんなに怖いなら、桃が持ってろって」

「うん‥」

シロちゃん。
と呼ばれた子供は、姉である桃に提灯を手渡すと、二人から少し離れた所を歩いていた老婆の元に駆け寄る。

「ばあちゃん、足下気を付けてな」

「冬獅郎は優しいねぇ。ありがとね」

薄暗い足場の悪い道を歩いていた為、少し遅れをとっていた祖母を気遣い声をかける子供に、老婆が優しい笑みを向ける。

そんな光景を見つめていた少女は突然、頬をぷーっと膨らませると少年と老婆の元へと駆け寄った。

「シロちゃんばっかりずるーい!!私だって優しいもん!!」

頬を膨らませ、少年と同じく祖母の元へと駆け寄る少女。
焼きもちを焼いているのか、子供らしい会話を繰り広げている二人の可愛い孫の頭を、老婆はよしよし、と優しく撫でた。

「桃も優しい子だよ。二人とも、ばあちゃんの自慢の、可愛い孫だよ」

さあ、早く行こうね。と先を促す祖母の手を
、少女が繋いで森の中を進んでいく。
少年は、そんな二人の後ろをゆっくりと追っていく。

「‥今年は見えるかなぁ?」

提灯を持ち歩く少女が、楽しげな声音でそう呟いた。







ーー今日は7月7日。七夕の日。
年に一度のこの特別な日は、空に輝く天の川を見ようと、多くの人々が夜空を見上げる日。

そして年に一度、織姫と彦星が天の川で再会を許された日。



「今日はお天気も良いからねぇ。綺麗に見えるだろうねぇ」

つぶらな瞳を輝かせ、声を弾ませる少女に祖母が優しく、そう答える。

桃と冬獅郎と老婆が暮らす、潤林安の家から少し離れた森の中。
ポッカリと一箇所だけ木々が生えない場所があり、そこから美しい星空を眺める事が出来る。

その為、毎年七夕になると三人は夜道を通り、その場所で天の川を眺めるのが恒例行事であった。


「毎年、欠かさず三人で見に来ていたからねぇ。でも、来年からは桃は霊術院に通うからね。三人で見るのはこの先難しくなるかもしれないねぇ」

来年から。
桃は死神になる為に、家を出て霊術院に通う様になる。
そうすれば、今までみたいに毎年七夕に三人で集まる事は、今後は難しくなるだろう。


「‥半ベソかいて帰って来んじゃね〜ぞ」

少ししんみりしてしまった空間に。
ボソリと少年が桃に向かってそう呟く。
そうすれば桃は再び頬を大きく膨らませ、ポカポカと少年の背中を叩いた。

「半ベソなんてかかないもん!!私、頑張るから!」

そう、笑顔で告げれば。
少年は小さく笑い、少女の持っていた提灯を手に取り再び歩き出した。

「‥ほら、着いたぞ」


辺りに生い茂っていた木々が無くなると、急に大きく開けた場所へと辿り着く。
木々が生えていない為、ぽっかりと空いた空からは。

零れ落ちそうな程沢山の、輝く星が空一面に煌めいていた。


「わぁぁぁ〜!!綺麗!!」

おばあちゃん、シロちゃん!!すっごく綺麗!!と、桃がはしゃぎながら空を見上げている。
そんな少女の隣で、少年も煌めく星空を眺めていた。

「今年も、織姫と彦星は天の川で再会できたねぇ」

同じく少年と共に星空を眺めていた老婆が静かにそう呟く。
そして、隣に居た少年に分かる様に星空に指を指した。

「天の川を跨ぐ様に二つ。大きな星が見えるだろう?あれが、織姫と彦星だよ。
空が晴れて天の川が現れると、二人を引き合わせる為にカササギが現れて、天の川の架け橋になるんだよ」

ーーそうする事で、織姫と彦星は再会する事ができるんだよ。

祖母のその言葉に、少年は少し考える素振りを見せると、じゃあ‥と口を開いた。

「もし、雨が降って天の川が現れないと、織姫と彦星は再会できないのか?」

子供らしい、あどけない表情でそう尋ねる少年に、祖母はそうだねぇ‥と呟いた。

「雨が降って、天の川が現れなかったら、二人は再会できないんだよ。だから、七夕の日に降る雨は『催涙雨』と言って、会う事の叶わなかった二人が流した涙。と言われているんだよ」


「‥じゃあ、晴れれば、織姫と彦星は合う事ができるんだ‥」

祖母のその話を聴きながら、少年は静かに、美しい星空を眺めていたーー









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