ワンスモアユーオープン
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ゆいりの家が近づいてきた頃、岡田は後ろで眠る彩希に声をかけた。
「お嬢さま」
何も返答はなく、深く眠っているようだった。赤信号で停車中に、バックミラーの角度を変えて、様子をうかがう。
癖のない黒髪が、傾いた顔のほとんどを隠していた。
「オジョーサマー。起きてください」
岡田の声に何の反応も示さなかった。青信号になり、車は再び動き始める。
赤ワインを数杯飲んだだけで、こんなになってしまうんだったら、飲み方を知らないんだろう。
もし、自分が悪い奴だったら、彼女はこのまま連れ拐われて何をされていたことか。
悪人がこの世にいると知らない、世間知らずのお嬢様は、到着しても眠ったままだった。
岡田は屋敷の前に車を止め、後ろを振り返る。
「お着きですよ」
岡田は少し大きめの声をかけたが、やっぱり反応がなかった。
岡田は車から降りて施錠をすると、屋敷に向かい、女性のお手伝いさんを連れてきた。
「ゆいりお嬢様が、眠ってしまわれまして……」
お手伝いさんは、ゆいりの身体を揺すって起こした。
「あ、ん、、」
「起きてください」
「はぁぁ、おかださん、、」
「はいはい。岡田さんが送って下さったんですよ」
お手伝いさんは、ゆいりに肩を貸して歩き始めた。
「ふぅぅぅ、、岡田さあん、」
岡田は、その背中を見送り、帰っていく。
お手伝いさんが、ゆいりを連れて屋敷に入ると、彩奈が興味ありげに話しかけた。
「おかえりー。どーだった??」
「ん、あ、まわ、は」
「ちょっと、どーした?」
「もふもふ……」
ゆいりはお手伝いさんによって、ソファに座らされた。
「んふっ、」
「車の中で眠ってしまわれたらしいですよ。お酒を飲み過ぎたんですかね」
「えっ。ちょっと何やってんのよ」
「はぁ?まだのめますよー」
「ダメだこりゃ」
お手伝いさんがグラスにお水を注ぎ、それをテーブルの上において部屋を出ると、彩奈も隣に腰を下ろした。
「ゆいり、どうなの?楽しめた?ちゃんと話せた?」
「当たり前じゃん」
ゆいりは、ボーッとしたまま、グラスの水を少しだけ口に含んだ。
「良かったね」
「うん」
薄暗い車の中で見た岡田の顔を思い出していた。
あんなに近くに、そして……。
「っ!」
ほんの数秒見つめ合い、女の子のように長いまつげが下りた瞬間の感覚がよみがえる。
「あ、ぁぁぁわ、、」
ゆいりは、咄嗟に自分の唇を押さえたが、そのあとまた強い睡魔に襲われ、眠ってしまった。
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