ワンスモアユーオープン
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食事も終盤にさしかかったところで、ゆいりの頭が前後に動きはじめた。
緊張を誤魔化すために、ワインをするする飲んで、酔いが回っていたのだ。激しい眠気が彼女を襲う。
ゆいりの異変に気がついた岡田は、早々に切り上げて店を出た。車を回す間、赤い顔の彼女をひとりには出来ないので、駐車場まで連れて歩く。
「大丈夫ですか??」
「ん、なにをしんぱいして、、」
足もふらふらで、ろれつも回っていない彼女に、岡田は焦った。
人目を気にしながら、彼女の体に触れ、転ばしてしまわないように支えて歩く。
さいわい、駐車場の隣のスペースが空車になっていたので、岡田はドアを大きく開いて、ゆいりの背中を押して誘導した。
「大丈夫ですか?乗れますか?」
「んん、、」
ゆいりは車の近くに立ったまま、一向に乗り込む気配を見せない。しびれを切らした岡田は、彼女の腰と足を抱えあげて、強引に乗せた。
「申し訳ございません」
「……ぅ」
ぼんやりとした意識のゆいりは、ボーッと目を開いていた。
駐車場の看板の明かりが、わずかに車内を照らしている。
うす暗い中、良く見えない。近くでその美しい顔を見たいと思ったゆいりは、酔いのせいにして岡田のネクタイを掴み、ぐうっと引き寄せた。
「っん」
岡田はキスをせがまれていると勘違いをした。そこまでしている女の子に恥をかかせる訳にはいかない。ためらいもなく、軽く唇を合わせた後、シートベルトに手を伸ばしてカチリと締めた。
まさかキスをされるなんて思っていなかったゆいりは驚いたが、酷く酔っていたために、眼球だけ震わせた後、ネクタイを掴んでいた手を緩めた。
眠ってしまったゆいりを乗せた車はゆっくりと発進する。
ウインドウに反射した小洒落た街が流れてく。
タイヤが地面を滑る音だけの世界で、岡田は考えていた。さっきの彼女はどうしてキスを求めてきたのだろうか。
酔って眠ってしまう寸前、彼女は正しい意思のもとでの判断など下せていないに違いない。
自分を、今日食事するはずだった彼氏とでも勘違いをしたのかもしれない。
もしかしたら、その彼氏がドタキャンをしたことに対する当て付けなのかもしれない。
岡田は、少しモヤモヤした気持ちになったが、仕事なんだから仕方ないと割りきって、ハンドルを握りなおした。