ワンスモアユーオープン

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「え?でも、自分なんかでいいんですか?」

「はい。今からだと誰もすぐに来れそうにないし……」



そしてやや強引に承諾をしてもらって、私たちは2人で入店をした。
周りの人は私たちの事をカップルだと思うに違いない。それが、やや気恥ずかしくて、私は少し顔をふせてみたり、あげてみたりして、落ち着くことが出来ずにいた。



「お飲み物はいかが致しますか?」

いつもはこういうところにきても、誰かがオーダーをしてくれていた。両親であったり、姉であったり……。
私は実はよく分からなくて、でも分からないと言うのが恥ずかしくて、馴れているふりをして適当に誤魔化した。

「オススメで」

ウェイターが彼の方を見ると彼は黙って頷いた。きっとこういうところに馴れていないのだろう。

「ナイフとフォークは外側のものから使うんですよ」

彼はニコっと笑って答えた。

「承知しております」

いつも後ろ姿ばかりを見ていたけど、やっぱり正面から見る彼は、眩しいくらいに美しかった。
私が見とれている間に、彼はスパークリングウォーターをオーダーしていた。

料理を待つ時間にも、何も話すことが出来なかった。
会話がないのが怖くなった私は、紛らわすためにグラスのシャンパンを一気に飲み干した。

「お酒はお好きなんですか?」

彼は優しい声で、空気をいろどった。そしたらそれまで私が不安に思っていたのを忘れてしまうような不思議な気持ちになった。


「いえ、そんなに、あの、たしなむていどに……」

「ハハッ。お強いんですね」

彼はまた、天使のように優しく笑ってうなずいた。

「いえ、そんな、あの、運転手さん、あの、岡田さんは、お酒は飲まれないんですか」

「そうですね。お休みの時に少だけですかね」


私を真っ直ぐと見る眼差しに、本当にドキドキして、緊張して、せっかくの食事も味が分からなくなるくらい、私は変になってしまっていた。

そして、メインの時に私のグラスに赤ワインが注がれてからの記憶がない。

「綺麗な色ですね」

「え?」

「透き通るように美しいボルドー……」

私にはまだ、ワインの美しさなんて分からないけど、その時初めて、人間の美しさを目の当たりにしていた。


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