ワンスモアユーオープン
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会社から帰宅した私は自室で腹筋運動をしていた。
何も考えずに無心でしたいのに、つい彼の事ばかりを考えてしまう。そういえば今日、髪を切ったみたいだったのに、それについて話しかければ良かった。
結局何も話せないままの自分の不甲斐なさにあきれてしまう。
「はぁ、、」
あれ?腹筋は何回目だっけか?
ため息をついて、数を忘れてしまった。
ガチャ!!
いきなり、姉の彩奈が私の部屋に入ってきた。
「ちょっと、ノックしてよ」
「別にいいじゃん。姉妹なんだから」
「てかさ、なんでいんの?」
「里帰り出産するって言ってなかったっけ?」
「え?もう?早くない?」
「旦那さまが心配なんだって。私がひとりの時になんかあったらって」
たしかに、姉のお腹はずいぶんと大きくなっていた。なんだか不思議な気分だ。しばらくすると姉から赤ちゃんが産まれるのか。
「そうそう、それでね。岡田さんに迎えに来て貰ったんだけど、あの人イイ人じゃん」
「え?!」
「イケメンだし、力持ちだし、荷物も全部ひとりで運んでくれたし、転ぶといけないからって手もひいてくれて……」
「家に入ってきての?!」
「え?うん。もう帰ったけど。。もっかい呼ぶ?」
「いや、いーいーいー!」
子どもの頃からそうだ。私がなかなか出来ないことを姉はたやすくしてしまう。器用に振る舞えるのが素直に羨ましい。
「ゆいり、車で何も喋んないんだってね。嫌われてるんじゃないかって落ち込んでたよ?それでさ、私考えたんだけどね、……」
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数日後
「すいません。お休みの日に」
「いえいえ。いつでもお呼び下さい」
姉は、私の為にフレンチのレストランを予約をした。とっておきの作戦を敢行するらしい。
車が発車すると、彼が口を開いた。なんて素敵な声なんだろう。
「お迎えの時間、またご連絡下さい」
「はい」
それからまた私は何も話せずに沈黙が流れて2人を包む。
そしていよいよ、お店が近づき私は姉に言われた通り、演技をする。
「友達が急に行けないって連絡してきて、お店には2名で予約をしているし、どうしよう……」
「……」
「あの、もし良かったらご一緒してくれません?」