ワンスモアユーオープン
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やっぱり、みんなが求める素敵な男性には、パートナーがいるってのが社会の通念。
「でもさ、そんなの分かんないじゃん……」
「なに?諦め悪いわね……。たしかに、彼女持ちの男にチョッカイかけれるのも今のうちだけだし、遊んでみてもいいんじゃない?」
「いや、別に、そんな……、あれじゃないけどさ」
「そうと決まれば、ゆいりとその運転手くっ付けよう大作戦!だね!」
「は?ぁ?」
「ゆいり、明日から電車通勤やめて、車で送迎してもらいなさい」
姉は面白半分で、私をひやかしながら、送迎の手配をした。
そんなこんなで、翌朝、私は緊張しながら玄関のドアを開いた。
車は約束の時間に遅れることなく到着して既に私を待っている。
「おはようございます」
「おはようございます」
私が車に近づくと、彼は後部座席のドアを開いた。
その一挙手一投足がスマートで紳士的な振る舞いに感じる。それに、やっぱり何度確認しても、綺麗な目をしていた。
彼が車を発車させて、私は少しでも仲良くなりたくて、何かお話をしようと思って、変なことを言って嫌われたりしたらどうしようなんて思いながら、意を決して話しかけてみた。
「昨日、ありがとうございました」
「いえ」
彼は短い言葉で会話を終わらせた。それでも私はめげずに話をする。
「いいお天気ですね」
「そうですね」
またあっけなく終わってしまった会話に、私はてんぱった。何でもいいから、早く次の言葉を出したかった。
「運転手さんのわりには、お話があまり上手くないんですね」
「ははは。申し訳ございません」
うっかり言ってしまった私の嫌みに彼が笑い声を出した。
「美しい女性の前では緊張してしまって、上手く話せないんですよ」
彼のその冗談に上手く笑えなくて、むしろなんだか、ただのリップサービスと分かっているのに変に照れてしまって、そのままうつむいて、私は何も話せなくなってしまった。
そして、毎日送迎をしてもらってもなんの進展もないまま、ただ静かな月日が流れ始めた。