ワンスモアユーオープン
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病院を出て、秘書が運転手に電話すると、すぐに車がまわされた。
「お待たせ致しました」
私が後部座席に乗り込んだ後、秘書は助手席に座った。
「会長、命に別状なしだって」
「良かったですね」
「明日には退院できるらしい」
運転手はさっきの運転手とは別人みたいに軽快に首を縦に振って声を出した。
「発車致します」
「岡田くん待ってる間、何してたの?」
「え?普通にスマホ触ってました」
「スマホで何してんの?」
「ゲームしたり、動画見たり」
「ははは、若者かよ」
「一応まだ若者ですよ。23すから。もうすぐ24ですけど……」
「そう、そう、ゆいりさんと同い年だよね?確か?」
「え?そうなんですか?」
「1997年でしょ?タイタニックが公開された年」
「タイタニックは何年か知りませんけど1997年生まれです」
「じゃあ同い年だよ。ねえ?そうだよね?ゆいりさん?」
「ええ、はい」
秘書が名指しで私に話しかけたので、私は適当に相づちをうった。
タイタニックといえば、貴族のお嬢様と貧乏な芸術家のラブストーリー。私も一時、運命的な恋愛に憧れていた時があった。でも現実は姉のようにどこかの御曹司とお見合い結婚をすることになるのだろう。
結果的に姉は凄く素敵な人と結婚できたけど、私にはつまらない未来しか予想できなかった。
車が停まり、私は自宅に降ろされる。
運転手が外に降りて、ドアを開けた。
「どうぞ」
「キャ!」
私はあろうことか、足を滑らせて、転びそうになってしまった。
「大丈夫ですか?」
思い切り運転手の胸にもたれかかかった私は、運転手に体勢を戻してもらった。
「ええ、あ、ありがとうございます」
凄く恥ずかしくなって、私は急いで家の中に入った。
玄関のドアを閉めた私の胸の鼓動は激しくなっていた。
付き合ってもない男の人の胸に抱かれたような、なんとも表現しがたい、奇妙な、罪悪感なのか、トキメキなのか、自分でも分からないけれど、動揺していることは確かだった。
その時、病院に向かう前に運転席から振り返り、私を見ていた彼の顔を思い出した。
それは、レオナルドデカプリオにもひけをとらない、甘いマスクをしていた。