ピカピカの1年生
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岡田くんは咳き込みながらスマホを拾い上げた。
「ん、もう23分たってるのに……」
「やっぱり金曜日のこの時間タクシー忙しいのかな」
「ん」
岡田くんは辛そうに相づちをうった。
「あ、来ました」
「良かった」
タクシーのドアが開き、岡田くんが鞄を持ち上げて、乗り込もうとすると、つまずいていて片膝をついてしまった。
「大丈夫?」
「ん、」
「お客さん?酔っぱらい?」
「ん、」
「うーん。返事もされないんじゃ困るなぁ……」
「……ん、ハーフフィッシュタワーまで……」
岡田くんはゆっくり立ち上がってタクシーに乗り込み、か細い声で運転手さんに伝えた。
「はい。ハーフフィッシュタワーですね……。お姉さん乗らないんですか?」
「ええ。はい」
「困るなぁ、お兄さんもう寝ちゃってるし……。前に寝たお客さん起こそうとして体を揺すったら、財布とられたって揉めたことがあったから、もし起きないんだったら、そのまま警察署へ行くことになってるんだけど……」
「ええ?」
岡田くんはシートにもたれて、頭をガクンと落としていた。早くベッドで寝かせてあげたいし、たまには先輩として、後輩の世話をした方がいいと思い、私もタクシーに乗った。
バッン。
「うわぁ、飲みましたねぇ。酔っぱらいの匂いが……」
運転手さんはそう言うと窓を開けて車を走らせはじめた。
岡田くん、ハーフフィッシュタワーに住んでるんだ。独り暮らしって聞いたことがあるけど、あそこは凄く家賃が高いって噂だし凄いなぁ。
「はーい。2,440円です」
「岡田くん?着いたよ?」
私は岡田くんを起こして、タクシー代を支払った。
タクシーから降りた岡田くんは眉間にシワを寄せた顔を上げて、私を見た。
「え?」
「大丈夫?お部屋まで行ける?」
「はい。どうして?村山さんが?ゴホッ、」
大丈夫だから、もう帰ってくださいと言う岡田くんをなだめて、私もエレベーターに乗った。もし、途中で倒れたりしたら、大変だから。
「あ、ごめん。トイレ貸して?」
「え?」
「ほんと、ごめん」
岡田くんが鍵を開けてくれた瞬間、照明が自動でついた。すっご。しかも広っ。
「こっちです」
「あ、ありがとー……」