ワンスモアユーオープン
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「いいじゃん、ね?」
彼は腕の角度を変えて光を反射させたりして、じっくりと時計を見ていた。
「いいんじゃないですか?かっこいいですし」
「あの、これ下さい」
私は片手を上げて店員さんを呼んだ。
「お買い上げありがとうございます。お支払いは……」
「クレジットでお願いします」
私はお財布からカードを取り出してカウンターに置いた。
一応このお金は、あのつまらない職場から振り込まれてるものだから、私が稼いだお金ということになるのかな。
出された伝票にサインをして受け取った紙袋を、彼に渡した。
彼は黙って両手で受け取った。
あんまり嬉しそうに見えない。
「違うのが良かった?」
「これでいいんじゃないですか?」
「ねぇ、なぁちゃんの時計なのに好きなの選んでくれないと意味ないじゃん」
「え?!コレ!自分にだったんですか!?」
「なぁちゃん以外に誰がいんのよ」
ちょっと不満に思った私は、なぁちゃんの腕に拳を当てた。
「あ。ありがとうございます……」
彼は私の方を見て、ははっと笑った。
そのあと、ホテルに行った。
彼は、紙袋の中から腕時計を取り出して、手首にはめて私に見せた。
「どうですか?」
「うん、似合ってるよ?」
それから、腕時計のリューズなんかをいじりながら、あああ、とイライラした声を出して説明書を見始めた。その姿が子どもみたいで可愛らしい。
「あーなるほど……。コレ、、自動巻きなんですね」
私はイスに座っているなぁちゃんに後ろから抱きついて、肩に首を乗せた。
コネ入社だし、あんまり活躍するような仕事じゃないけど、一応、私の働いたお金で買ったんだよ。なぁちゃんもあの指輪を買えるように、、
「お仕事、頑張ってね?」
「はい」
唾液を飲む音が聞こえた。なぁちゃんは、私が回している手を優しく捕まえて、腕をほどく。
そのまま振り向き、座ったまま、私を見上げた。
「ゆいりさん、一緒にお風呂入りますか?」
「へ?」
「ん?」
「いや、バカ、入んないよ!」
「あぁ、そうなんですね、はい、」
「もう!なに?!へんたい!お風呂って、あわわわわ……」
一緒にお風呂だなんて、あんな明るい密室で裸同士なんて恥ずかし過ぎる。しかも、いきなりそんな事を言うもんだから、私はテンパってしまった。
「ええ?お風呂はNGなんですか」
「あー、あたりまえじゃん」
「なんか、可愛いですね」
あの時の、彼が彩奈の赤ちゃんに見せた時みたいに、目を細めた笑顔をしていた。