ほのう

□十
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普段より早い電車に乗り、少しだけ早く会社に来ていた。私が直接誰かに何かを言われた訳ではないけど、階段で2階まで行くのがルーティンになっていた。ひんやりとした社内で、少しボケッとしていた私は、爽やかな声でハッキリと目覚めさせられた。

五「おお、村山さん。おはよう」

「お、おはようございます。あの、この前、お留守の時に泊まらせて頂いたんです。すみません」

五「ななちゃんに聞いたよ。また泊まりに来てあげてね。僕、なかなか帰れない日が多いからさ。ななちゃんも寂しいだろうし」

浮気してるから帰れない日が多いなんて、岡田ななさんが可哀想に思う。

「はい。文書郵便課に用事ですか?階段でなんて」

五「違うよ。運動のために、時間がある時は階段で上がってるんだ」

「ええ?ほんとですか?」

五「うん」

「今日は、ななさんと一緒に通勤しないんですか?」

五「いつも別々だよ。僕の方が早く行くことが多いし、ななちゃんが恥ずかしいんだって。じゃあね!」

奥さんを裏切っている男は、爽やかな空気を纏って階段を上がっていった。女の子のような甘い香りではなく、スッとした爽やかな空気。岡田ななさんの家のシャンプーとは違う香り。もしかして、昨日も家に帰ってないのかな。
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