ほのう
□一
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「あー!おはようございます!村山さーん」
岡田ななさんの大きな声がしたので後ろを振り返った。短い髪を揺らしながら、飼い主を見つけた子犬のように私に駆け寄ってくる。
「おはようございます!」
「おはようございます」
「階段で行きましょ」
手を引っ張られて無理やりに連れていかれる。
「この前、文章郵便課はエレベーター使うなって怒られちゃって」
えへへと明るく笑いながら頭に手を置いている。よく見ると、綺麗な顔立ちをしていて、誰が見ても美人というような顔だった。
「まぁ、2階ですもんね。岡田ななさんは、おいくつですか?」
「25歳です。平成9年生まれです」
「私もです。同い年なんですね」
「仲良くして下さいね」
次の仕事が見つかれば、この会社を辞める。でも、そんなことをわざわざ言う必要もない。社交辞令で適当にかわす。
「よろしくね。岡田ななさんは、初めから文書郵便課なの?」
「はい。そうです」
「希望はどこだったの?」
「文書郵便課ですよ?」
彼女がフロアのドアを開けて中に入るのを、私も後ろについて入る。
「おはようございます」
気になる事が2つあった。なぜ文書郵便課を志望したのかという事と、なぜ同い年なのに敬語で話すのかという事。
「おはようございます。今日からシュレッダー係になります。村山です。よろしくお願いします」
デスクは8つあるのに、人間は課長と、岡田ななさんと、私と、もう1人の男性しかいなかった。
岩村「おおお、かわいい」
「岩村くん良かったね。両手に花だよ」
岩村「村山さんは、恋人はいますか?」
「いません」
「岩村くんと、村山さんでムラムラコンビでいいじゃないか」
岡田「課長!セクハラです」
「こんなのもセクハラなの?厳しいなぁ。厳しいよね村山さん?この前なんて、成城石井って言っただけでセクハラ扱いされたんだよ」
「はぁ、、、」
「私もシュレッダー手伝います」
「でも、岡田ななさん自分の仕事は?」
「いつも10時くらいまで郵便は来ませんから。朝刊を配り終わったらそれまでする事ないんです」
岩村「じゃあ、僕も手伝うよ」