対局中

□キャラメルみたいな片想い
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電車で毎朝すれ違う綺麗な人
綺麗に切りそろえられた真っ直ぐな黒髪


今日も憂いを帯びた横顔
どうしていつも、そんなに淋しげなの?


聞きたいけど聞けない
私はただ電車で一緒になるだけの存在


貴方は私のことなんて知らないから
これは自分勝手な一方通行の片想い


でも、もし願いが叶うなら、、
一瞬でいい、その瞳に私を映して欲しい


もしもあの美しい彼と目が合ったなら、どんなに心臓がドキドキするんだろう


(振り向いて・・・こっちを見てっ・・・)


不毛な想いに蓋を閉めて、、
キャラメルの包みをひらき口の中で溶かした


この甘さはきっと・・・恋心に似てる


彼を見ると胸がギュッと切なくなった
でも彼を一瞬でも見かけるだけでとても幸せだから




ーーーーーーーー


がががががっ!!


「うっっ!!」


電車の扉に通学用のリュックを思いっきり挟まれた


周りの鋭い視線を浴びながら一生懸命鞄を引っ張るけれど、一向に此方に戻ってこない

私にぴったり張り付く扉に諦めの境地
恥ずかしさで熱を持つ熟れた林檎のような頬


今日は見かけない・・・あの人


(良かった・・・こんなの見られたら恥ずかし過ぎる)






少し前まで海王中の制服だった彼
春からスーツを羽織り、凛とした彼とは偶然再開出来たものの、木曜日しか逢えなくなった


偏差値の高い学校に通う彼とは不釣り合いな私は、ごく普通の学校に通う女子高生


「いつか・・・貴方の彼女になりたいな」


・・・なんて、烏滸がましいよね


プシャーっと音を立てていきなり扉が開く

考え事をしている間に一駅過ぎたらしく、挟まれた鞄が急に扉に解放されて体が大きくグラリと揺れる


リュックの中身が弧を描き、綺麗に宙を舞う・・・
教科書、筆箱、ハンカチ、神社の恋みくじ、それと先日返された日本史Bの答案用紙


そして私は見事に投げ出されて思い切り前につんのめりながら駅のホームに転がった






・・・と思った


刹那、ふわりと優しい腕に抱きとめられる


見覚えのある薄紫のスーツに黄色いネクタイ


嘘・・・なんでこのタイミング?!


やだ、絶対やだ!ダメダメダメーっっ!!





『・・・っ・・・あの・・・大丈夫ですか?』


嘘、ねぇこの人今笑った?


「だ、だだだ大丈夫ですっ!ごめんなさい!」


『・・・っ・・・・・・ふっ・・っ・・・』


苦しげに肩を震わせる彼を、初めて真正面から堂々と見つめた


私を見て笑っている今日の彼は憂いの感情なんてひと欠片もなくて、、

いつも見る綺麗で儚げな横顔よりずっと魅力的で・・・凛とした視線が痛いくらい胸に突き刺さった


口の中のキャラメルが一気に熱を帯びて急激に甘く蕩ける



『それ、いつも食べてるよね・・・』


「・・・えっ・・・」


『キャラメル、好きなの?』


「・・・はいっ!・・・ずっとずっと好きでした!」


今の好きは何に対する好きなんだろう・・・

自分で言った言葉が急に重みを含んで恥ずかしくなり、顔に血液が一気に集まってきた


『教科書、拾うの手伝うよ』


「はいっ・・・あ"っ!ダメ!ダメダメっ!!」


『筆箱とハンカチと・・・それから・・・日本史Bのテスト28点・・・はい、どうぞ。さくらさん』


「わわわわわわわわ!!!」


『・・・っ・・・ははっ・・・キミの名前はさくらさんっていうんだね』


「・・・っ・・・はい、あのっ・・・!!」









『 塔矢 アキラ 』


「・・・・・・っ?!」


『囲碁、スペース、塔矢アキラで検索して。多分すぐに見つかる筈だから』


「・・・あのっ・・・!!!」


『・・・090−1214 ××××』


「えっ・・・・・・」


『僕の携帯の番号』


クスリと笑う彼に翻弄されて、、
あっという間に思考回路も視線も脈拍も、心ごと何もかもを攫われる



必死に復唱して覚えた携帯番号に、思い切って電話してみた


「・・・もしもし、よく覚えてたね。偉いよ日本史B28点さん」


意外と意地悪な彼にドロドロに溶かされる日を夢見て


今日も私は貴方に恋に堕ちていく




Fin

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