対局中

□ダイエットは明日から
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「や〜い!でーぶ!!!」


小学生らしき三人組の男の子からすれ違いざまに急に叫ばれた


ギギギギギ、、

そんな音がするくらい首をゆっくりと動かし・・・そっと振り返ったが「でぶ」とはやはり自分の事らしい


確かに最近、3キロも太った


ああ、私は太ったさ・・・

スタバのキッシュが大好きだし、マックのナゲットを限定のコンポタソースで頬張りたい

夜中にテスト勉強しながらポテチを食べてしまったよ!

あと、アーモンド入りのチョコが最近の朝ごはんになっているのも事実だ


だがしかしっ・・・!!!


道行く女性に向かって急に「でぶ」はないんでないかい、おチビちゃん達


そんな事を思いながら言い返す言葉もなく、泣き出しそうになりながら前を向くと・・・今一番会いたくない人がいた








『・・・と、塔矢くんっ・・・!!』



まさか、塔矢アキラと出くわすなんて思ってもみなかった

彼は囲碁のプロ棋士で、皆の憧れる存在で・・・私なんかには手の届かない王子様だった

一方的な片想いで、隣の席からただチラッと見つめるだけで幸せだったのに


こんな場面を見られるなんて



羞恥心に顔が歪む、、




「・・・さくらさん、今帰りなの?」


『うん、日直の仕事が長引いちゃってさ・・・あはは』


ちびっこ達は後ろからクスクスと嫌な笑い方をしている


「や〜い!でぇぇぶ!お前にも彼氏とか居たんだな〜!!」


そう言って塔矢アキラを指さした


『違うよ!塔矢くんはただのっ・・・

「・・・さくらさんに何か用?」


そう言って、爽やかにちびっこ達に笑いかけた




「お前の彼女すっげ〜でぶ〜!!どすこい!どすこい!」


ケタケタと笑われて、穴があったら入りたい

悔しさに唇を噛み締める


そんな私の様子を横目で見つめながら塔矢アキラはクスッと笑った


(もう・・・おしまいだ・・・)




刹那、、グッと体が宙を舞う



「・・・今度、僕の彼女を苛めたら許さない。君たちはどこの小学生かな?制服で分かるね、鮎小?学年は小学四年って所か。黄色い帽子に阿部と書いているが、阿部くんで間違いないね?」


冷ややかな目線は小学生を侮蔑するような鋭さを放っていて、思わず生唾を飲んだ


そして心臓が止まった、、


彼の端正な顔がすぐ側にあり、さらさらとした綺麗な髪が自分の頬を擽る


ぼーっと見惚れていると、、

小学生達は猛ダッシュで逃げて行き、私と塔矢アキラだけがその場に残された


時間が経って、どんどん恥ずかしさだけが残り・・・自分の情けなさに思わず涙が滲む


そんな様子を見ていた塔矢アキラは何も言わずにそのまま歩き出した



『あ、あの・・・塔矢くん・・・』



びっくりする事に、私は塔矢アキラにお姫様抱っこされていた


そのまま踵を返して学校の門をくぐる

周りの生徒が此方をチラチラ見るのもお構いなしで、教室へと連れて行かれた



『お、重たいから!やだっ・・・本当にごめんなさい!お願い!下ろして〜っ!!』


顔を真っ赤にしながら謝るも、塔矢アキラはくつくつと笑うだけだった


放課後の誰もいない教室で、塔矢アキラの笑い声が谺する


「本当に、少し重いね・・・ハハ」


そう言って、床にすとんと下ろされて止まりかけていた心臓が動き出す



『・・・最近、3キロも太っちゃって』


「だろうね、いつも見てるから分かるよ」




(いつも・・・?)


その言葉に胸がギュッと締め付けられる


「腰がこんなにプニプニしてるよ」


徐に手が伸びてきて、腰の肉をぷにっと抓られた


『ひゃっ!!!』


「柔らかいね・・・」


そう言って、横腹を撫で回されて思わず目をギュッと瞑る


『・・・やっ・・・やめてよ、塔矢くん』


肩を掴まれて壁際に追い込まれる


お腹から脇を指先でつーっと撫でられて気が変になりそうだった


そして、バン!!と鋭い音が響く


彼が勢いよく壁に手をついた瞬間、頬に軽くキスを落とされた



『・・・っ!!!!』



「どこを触っても柔らかいんだね」


『・・・っ・・ど、どうせ太ってるもん!』


涙を浮かべながら顔を見上げると塔矢アキラの唇は弧を描いていた



「本当だね・・・頬も可愛い」


腰を撫で回しながら壁に寄り掛かり溜息を零す

言葉の破壊力に、開いた口が塞がらなかった


『・・・・・か、可愛いって何?ドラえもんを可愛いとかそういう感じ?』


「鈍いな、キミは」


少し苛立ったように、乱暴な動作で顎に指を添えられる


「太っていても、痩せていても・・・そのままのさくらが良いよ」


唇が重なり、目を白黒させていると塔矢アキラの目が開き、思わず彼の肩を掴んで唇を離した


『・・・っ・・・えっと・・・え??』


「キミが好き・・・という事だ」



『うそっ・・・えっ・・・ええ??!』



「本当だよ」



『ホントなら!ホントなら私、ダイエットします!!!!』


大きな声で恥ずかしい宣言が教室に谺した



「・・・ハハ、分かった。じゃあ、今のうちにプニプニのさくらさんを堪能しておくよ」


そう言って体中を撫で回される






ダイエットは明日から。



そう言いながら、今日の帰り道・・・塔矢くんとたい焼きを買い食いしましたとさ



ー Finー


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