対局中

□Perfume
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僕を見てクスクス笑う可愛い君


いつになればこの微妙な関係から脱却出来るのだろう。君が好きだ・・・なんて言ったら、きっと君は。




「塔矢ぁー!!!!」

『何だ、騒がしい』

思いっきり大きな声で叫ぶさくら。ここは棋院だぞ、恥ずかしい。対局中の人もいるというのに


「ごめん、何か新鮮で嬉しくなっちゃった!!塔矢、いつもこんな所で打ってるんだね!」


彼女は僕が碁を打っている姿を知らない。気がつけば傍にいて、煩くてガサツで、でも僕の大切な人




「ねぇねぇ!こっちも見たい!」



『ウロウロするな』



手を引こうとしてもスルリと交わして走り出す。そんなに物珍しいのだろうか、棋院なんて幼い頃から来ている場所で、いつもと何ら変わりない


「ここ・・・」


タイトル戦で使用している対局部屋を指さす


『・・・・・?どうした?』


「塔矢の匂いがする」


『僕の?・・・畳の匂いの間違いじゃないのか』


「うん、いい匂い」


僕は僕自身の匂いなんて分からないが、彼女にとって僕はこんな匂いなんだろうか




『それは褒めてるのか?』


「うーん!ジジくさい匂い〜!はは!!」


そう言って、又走り出した。タイトル戦の部屋をこの間まで使用していたのは緒方さんと桑原本因坊じゃなかったか・・・



「塔矢ぁ〜!お腹空いた!塔矢ん家で美味しいお菓子出して!あの、三角の雪見だいふくみたいなやつ!!」


『分かった』


そう言って棋院を後にした。
電車に乗ると少し混んでいて、家まで座席には座れなさそうだった



ガタンっ・・・と電車が揺れ、さくらが塔矢の肩に寄りかかる

「わっ!・・・」

『大丈夫か?さくら』


「・・・・・・っ!!大丈夫」


さくらは顔を赤くして俯いた



「やっぱり・・・塔矢、畳の匂いがする」



『そう、でも好きな匂いなんだろう?君にとって畳が』



両肩に手を置いてしがみついたまま、僕を見上げる彼女



「あっ・・・ごめっ・・・!!
『気にしないで、しっかり掴まって』


そう言って腰に手を回す。彼女は下を向いて全然コチラを見ない




『恥ずかしい・・・のか?』


「・・・は、恥ずかしくなんか!!」



電車が着き、人混みに紛れないように手を引く



『迷子になるといけないからな』



手を繋いだまま家に帰ると母が夕飯の支度をしていた






「アキラさん、お帰りなさい」


『ただいま』


「あら、さくらちゃん。久しぶりね、どうぞ上がっていって下さいね」


「は、はい!!!」


『僕の部屋に生チョコレートの限定八ツ橋を持って来てくれる?』


「分かりましたよ」


そう言って母は台所へ入っていった


『行こうか』


階段を上がり、部屋の前まで来たというのにさくらはモジモジとしている



『どうした?』


「な、なんでもない!!」


『・・・・?・・やっぱり、八ツ橋は僕が取りに行ってくるから。先に入ってて』


「・・・ん。分かった」


襖をあけて、部屋に入ると碁盤と碁石に古びた本?のようなものがあった。



「塔矢らしいっ」


塔矢の碁盤、塔矢の本、塔矢のハンカチ、塔矢のノート、それから塔矢の普段着ているスーツ



そのスーツに手を伸ばしてぎゅっと抱き締めてみた



(塔矢の匂いだ・・・)






・・・ガラガラ・・・


『そんな事しなくても、本物がいるだろう?』



「・・・わ!と、塔矢!!な、へ?」



『何故って、僕の部屋だから。それと、生チョコレート八ツ橋がなくて、抹茶トリュフ味しか残っていない事を伝えに来たんだけど・・・』

「わわ、それで!いい!!!」



グイグイと距離を詰められ、息もつけないような近さで塔矢に見つめられる


『僕の事、どう思ってるんだ』



少し怖いような、でも綺麗な瞳に引き寄せられる



「ちが・・・

『何が違うの?スーツを抱き締めて匂いを嗅いでた事?』



「や・・・ご・・ごめんなさい」



『謝るんじゃなくて、質問に答えて。どう思ってるんだ』



「・・・・・・」



『あと、10秒以内に答えないと無理やり抱き締めるから』



「・・・えっ・・・や・・・待って」



『10、9、8、7・・・まだ言わない気か』



「えっ・・・えええ・・・っと・・・」



『5、4、3、2・・・


「わ、私!!」



『・・・・・・何』


「塔矢が・・・ね、あのっ・・・塔矢が好き・・・なの」



最後まで言い終わる前に、ギュッと彼女を抱き締めると、首筋から微かにバニラの香水の匂いがした













Fin



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