一局目

□一週間【前編】
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乱暴に引っ張られて駅への道のりを急ぐ


繋いだ指は決して、恋人のように甘美なものではないけれど、二人の距離は確実に縮まっていた


駅に向かう時に塔矢がハッとして自分のジャケットを脱ぎ・・・

きょとんとする杏にそれをバサっとかけて『着ろ』と命令した


「なんで?私、寒くない」


『首筋に二箇所と胸元の三箇所にキスマークが付いてるが、それでも良ければ』


「っ・・・!!!!」


ワンピースから露出した鎖骨を、思わず両手で隠す


「塔矢のせいじゃんっ!!最低!」

顔を真っ赤にして怒るも、彼は涼しい顔をして笑っていた


『服の中にカエルが入って、慌てふためいていたのは誰だ』


「・・・それはっ・・・でも」


『僕じゃなくて、緒方さんにされたかった?こんな風に・・・』


普段は碁石を打つ指先が、スっと胸元を撫でるように触る


「・・・っ!!やっ・・・」


こうして触れられる度に過剰に反応してしまう自分が腹立たしい


ぐうの音も出ないよう言い包められ、、
塔矢アキラの方が自分より、何もかも一枚上手だと実感した


『終電になったらどうする、早く来い』


そう言って差し出された手をぎこちなく握ると塔矢が一瞬笑ったように見えた






電車の中は会社帰りのサラリーマンでいっぱいになっていて、密封状態だった


そんな時、ふとお尻に違和感を覚える


グリグリと何か硬いものが当たるような・・・そんな気配と、後ろから荒い息遣いが聞こえた


手の動きを早めるようにして、お尻にガシガシと当たる手が気色悪くて吐き気がする


怖くて振り返られないけれど、塔矢がその異変に気付いた


『・・・杏、おいで』


まるで恋人を呼ぶように、笑顔でスっと私を引き寄せた


「・・・っ・・・とうやっ・・・」



『痴漢に遭ったんだろう・・・このまま大人しく抱かれていた方が賢明だと思うが』


そう言って、益々抱き竦めるようにグッと体を引き寄せた


逆上させないように、その得体の知れない痴漢から杏を守るように入口付近に押しやり、体勢を変えてグッと抱き竦める


息もつけない程、心臓がドクドクと音を立てて苦しくなった


(彼女の事もこんな風に守ってあげてるのかな・・・)


そう考えると、激しい嫉妬心で狂いそうになる


どうか今だけは、、
恋人みたいに、あの子みたいに塔矢に甘えたい・・・素直にそう思った



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