対局中

□嘘から始まる
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「塔矢アキラに毎回教科書見せてるけど、お前あんなのが好きなの?!」


塔矢アキラがトイレに行った隙に一人の馬鹿な男子(奥村)が休み時間に騒ぎ出した


「別に?私頼まれたから・・・それだけ」

素っ気ない返事をしては数学の教科書に目を通す


「塔矢アキラがお前に気があんじゃねーの?」


そう言って揶揄われて、周りからも嫌な視線を送られる


女子達とは上手く関係を築いてきたのに、もし嫌われたらと思うとヒヤヒヤした


「だから!私、あんなの好きじゃないから」


そう言って怒鳴ると、男子達が
「じゃあ、塔矢アキラの私物を一個盗ってこいよ」と言った


ここで断ったら、女子からも男子からも嫌われるかもしれない


そう思って、つい返事をしてしまった

「分かった、じゃあ放課後持ってくから」


別に機械人間のものを盗ったって問題ない・・・自分が女子に嫌われるくらいなら

その時はそう思った


ーーーーー



四時間目が体育の授業で、皆が移動している隙に塔矢アキラの私物を盗るつもりでいた


そっと彼の机に移動して、塔矢アキラがいつも読んでいる詰碁集を探したけれど見つからない





「・・・どこだろ・・・」









『もしかして、これを探してるの?』



後ろから突然声をかけられてビクッと体が反応する

詰碁集を片手に笑いかけられ、背筋がゾッとした


「塔矢君・・・!!」


『君が僕の私物を漁るなんて、ちょっと意外だよ』


その笑顔からは怒りも憎しみも感じ取れない・・・無の表情だった


「ごめんなさい、私・・・貴方に恨みはないけれど、何か持ってかないとイジメられるから」


『・・・消しゴムじゃダメかな』


そう言って微笑を浮かべ、消しゴムを渡されて更にびっくりする


「塔矢君・・・」


この人は私が自分の物を漁っていた事すら咎めなかった

それどころか、何を奥村達に持っていくかで悩んでいる



『僕のものだと証明出来ないものはダメなのかな・・・』


詰碁集を片手にうーんと唸り、何かを閃いたような顔をした




『これ・・・君が僕から奪えたら詰碁集はあげるよ』


「・・・しょ、正気?」


『うん、これでも責任を感じてるよ。君を巻き込んでしまって』


そう言って、詰碁集を高く上にあげて『ホラ、とって』と唇が弧を描く


塔矢君は背が高い

もしかして背が低い私は馬鹿にされているのだろうか・・・と一瞬訝しがった


塔矢アキラが余りにくつくつと笑うものだから、段々苛立ってくる


「ちょっと!馬鹿にしないで!絶対盗ってみせるんだから!」


そう言って、びょんびょん飛び跳ねるも塔矢君の手元までは遠く及ばない


苛立ちが抑えられず、思わず塔矢君の肩を掴みながら飛び跳ねた


クスっと笑った塔矢アキラは詰碁集を机に置き、ふわっと私を抱き留める




『危ないよ・・・』



そう言って腰にまわした腕をそのままギュっと狭め、抱き竦められた




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