松松物語

□なんなんだよ…
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気がつくと、ついさっき後にしたステージ裏に戻ってきていた。早替えで脱ぎ散らかした衣装がまだそのままの状態で、スタッフは片付けの前に別室でミーティングをしているようだった。逃げるように走ってきた俺は大きく肩で息をしながら立ち尽くしていた。

なんなんだよ。
俺は何にこんなに動揺してんだ。

ちゃかまちゅの仲がいいのは俺が一番知ってたはずだし、ちゃかに弄られてるまつくを見たって、今までこんな気持ちになったことなんてない。仲良いなーまつく嬉しそうだなーってそれだけだったろ?七人でいる違和感がだんだん薄れて、俺らもここに馴染んできて、みんなのこと同じように大好きなのに。
なのに、なんなんだよ。

乱雑に衣装がかかったラックの列に自分の名前と、その横に並ぶまつくの名前を見つける。

突然、脳裏にまつくの泣き顔が蘇る。ちゃかの胸で泣き崩れるまつくの姿が。

息が詰まる。胸が締め付けられて立っていられなくなって、体を丸めて膝をついた。込み上げる苦しさに顔をしかめた。止まったはずの涙がまた溢れ出て膝を濡らす。

「ううう…いってぇ…!」

また自分の胸倉をぎゅっと両手で掴んだ。まつくがちゃかのをそうしたように。

「なんなんだよ…!」

俺がしたかったこと、俺がするはずだったことを、他の奴に奪われた気がした。

なんでまつくの苦しみを受け止めるのが俺じゃなかったんだ。なんであの涙を拭うのは俺じゃなかったんだ!

守りたいのに。まつくを!
俺のまつくを…!

え、俺…の?

手に込めた力を少し抜いた。なのに胸の締め付けは全く緩まない。自分の心臓の音が手を伝って聞こえてくる。大きく早く鳴り響くその音は、腹の底から突き上げるようで、頭の中にも響き渡り、それを抑え込むように俺は両手で頭を抱えた。

うそだろ…やめろよ…!
知りたくねぇし…!
なんなんだよ!


念願のデビューが遠退いた失望感に加えて、今まで気付きもしなかった感情が突然リアルに立ちはだかって、俺はどうやって向き合えばいいのかわからなかった。


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