清麿x恵
□愛する君へのPresent
4ページ/4ページ
数分後、ドアホンが鳴り、清麿が姿を現す。手にはビニールの包みを持っていた。
「ごめん、こんな夜遅くに。それも疲れてる時に」
「ううん、そんなことないよ。さ、入って!」
恵の笑顔に手招きされてリビングへ入った清麿はまずビニールの包みを取り出した。
「喜んでもらえたらと思って作って来たけど、口に合うかな?」
包みから出て来たのは小さなランチボックス。そして中を開けると、オニギリとお新香が並んでいた?
「これ、私に?」
「うん。もし仕事先でご飯食べてきたなら明日でもいいよ?」
料理が苦手な清麿が作ってくれたことにびっくりした。いつもは恵が作ってくれているだけに新鮮な気持ちである。
「ありがとう、いただきます」
真ん中のオニギリをつまむと、程よい塩気が口中に広がった。プチプチという食感も広がる。やみつきになり食べ勧めていった。
「これ、焼きタラコ?」
「うん。好きだって前に言ってなかった?」
「うん!美味しくて、手が止まらなかったわ。お漬物がアクセントになってて何も食べてなかったから嬉しいな」
「味噌汁もあるけど?」
さりげなくフリーズドライの味噌汁も入れていた清麿の気配りがいつも以上に神がかって見えた。
「飲む〜」
思わず猫なで声になり、ちゃっかりオニギリに手を伸ばして味わいつつ味噌汁で口をうるおす。半分にして清麿にあげた。
「ご馳走さま。美味しかった〜♡」
「これだけじゃないよ」
次に清麿が取り出したのは綺麗に包装されたプレゼントボックス。中を開けると、レモンの香り漂う小さなシフォンケーキにティオと恵の思い出が詰まったアルバム、そして、ひまわりをイメージした黄色いキャップだった。かぶってみるとキャップが頭に全く違和感なくフィットする。
「すごい、かわいい!」
笑顔の恵を見て清麿の顔もほころぶ。ガッシュ達と一緒の頃はみんなのお姉さん立場ゆえかあまりみることはなかったが、今の恵も十分綺麗に見えた。
(やっぱり…素敵だな)
プレゼントを端に寄せると手際よくケーキを皿にもり、ケーキに舌鼓をうつ。生地の甘さとレモンの程よい酸味がマッチしていた。ふと清麿の目が恵の口元に向く。
「クリーム、付いてるよ?」
手鏡で確認すると、確かにわずかにクリームがくっついていた。
(やだ、彼に恥ずかしいところ見られちゃった!)
動揺を隠し、クリームを拭おうとするが意をを決するように清麿の影が伸びた。
「1つ…忘れてた」
セリフの真意がわからずキョトンとする恵みの唇が清麿の唇と重なった。数秒目を閉じたあと口元が離れたのを確認すると、ささやくような声が聞こえた。
「誕生日おめでとう…恵!」
不意打ちのようなキスにうっとりした恵。しかし清麿が真っ先に我に帰り、動揺した。自分でもなぜこんな大胆な方法に出たのかわからずびっくりしていた。
「ごめん!つい…勢いで…」
’’黙って‘’と言わんばかりに口元を人差し指で塞ぐ。
「ズルイよ…。でも、約束覚えていてくれたのね?」
約束とは、清麿の誕生日に恵がサングラスとキスをプレゼントした際に恵のバースデーに、清麿からキスをするという約束を交わしていたことである。
「忘れるわけないだろ?世界でたった1人の恋人のバースデーを」
そういうと、清麿は優しく恵を抱きしめた。優しさ、温かさ、愛しさがひしひしと伝わる。恵もまた、愛する恋人に求められる喜びを肌で感じていた。
「清麿…お願いがあるの?」
「どうしたの?」
「もう一回、してくれる?」
ささやくように言われ、はっきり目を見る。
「するところ間違えたらごめん?」
「いいよ…して?」
言い終わると再度2人の唇が重なり、先ほどよりも強く、深くお互いを感じ合う。2人の様子は窓越しに影となって写っていた。
ティオと恵のアルバムに加え、もう一冊
清麿と恵のアルバムが写真で埋め尽くされる日も遠くはない。
なぜなら世界でたった1つの思い出がゆっくりゆっくりとページを刻んでいくからだ。
結婚まではまだ時間がかかるが、2人きりのこの瞬間が、年に1日の記念日を彩っている。彼らにとってはそれだけでも十分すぎる幸せだった。
夜空には満月が愛し合う2人を見守るように、ひときわ強い輝きを放っていた。