清麿x恵
□愛する君へのPresent
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魔界の王を決める戦いが幕を閉じて数年が経った。恵も20歳になり、ますます人気沸騰中!今日も音楽番組の収録で楽屋にいた。
楽屋はエアコンが効いてはいるが、梅雨が明けて夏本番の暑さである。
(毎年のことだけど、この暑さは堪えるな…)
心の中でぼやきつつ歌詞とコードのチェックをする。一通り終えて気持ちを入れ直したところで、ドアをノックする音が聞こえた。
「入るよ〜?」
声の主は、ショートヘアで水色の半そでがよく似合う恵のマネージャーにして学生時代からの親友である冴木瑞穂だった。さっぱりとした性格で、ライブではドラムをこなす頼れるサポーターである。
冴木は台車をコロコロ転がしていた。上には小さなダンボールが一箱置かれている。
「よっこいしょ!」
テーブルの中心に箱が置かれ、‘‘ガタン’‘と重い音が響く。
「もう、集中切らさないでよ!Mストの放送時間変わって初めて出るから緊張するのよ!」
「ごめん。いくつもライブの場数踏んでてもやっぱり緊張するのね。歌ってる時の恵は楽しそうなのに」
恵の歌唱力の高さとアイドルとしての人気は言うに及ばずだが、責任感が強い彼女にとって楽屋は自分の気持ちを仕事モードに高める現場に勝るとも劣らぬ神聖な場所だった。落ち着いた時にふと見ると、置かれたダンボールが目に止まる。
「ところで、その箱。何が入ってるの?」
問いかけに答えずに指をさし、壁にかかったカレンダーに目線を誘導する冴木に促されてカレンダーをみる、8月12日だった。
「あんた察しが悪いわね。今日、誕生日でしょ。それも20歳の!」
「え…そうだったかしら?」
仕事に忙殺されたとはいえ、自分の誕生日すら忘れていた恵に脱力する冴木だったが、すぐに口を開いた。
「プレゼント企画で抽選されたファンの皆さんからプレゼント。開けてみて!」
見ると、そっくりの似顔絵や筆箱に名刺入れなど、実用性の高いものが10点ほど入っていた。通常ファンからのプレゼントは食べ物やブランド品が常だが、
『高価なものだと申し訳無いし食べ物だと食べきれないとロスになって気持ちを無駄にすることになってしまうのでご遠慮いただければありがたいです』
という恵のツイートに配慮して、みんな長く使えるものを送ってくれたのである。
ファンレターにはお祝いやねぎらいのコメントはもちろん、昨今のSNS炎上問題や流行病など、健康面を気遣うコメントであふれていた。送り主一人一人のコメントに感慨深げに目を通す。冴木もそんな恵を見てポンと肩を叩きにっこり微笑む。
「大海さーん、そろそろでーす!!」
番組スタッフに呼ばれ、軽やかに駆け出した。
「機械のような正確なリズムお願いね、瑞穂!」
「任せといて、バースデーの前座は最高のライブにしようよ!恵も音程、外さないでね」
’’前座‘’という単語に引っ掛かりを覚えたが、スタジオに駆け足で向かっていった。