清麿x恵

□サクラサク
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冬の寒さが落ち着き、温かな春の風が吹き始めた頃、美術館で古代の秘宝展を鑑賞した2人が美術館を後にする。ピンクのメガネと黄緑の帽子に身を包む恵の隣で、限定品の資料の入った袋を持った清麿が語りかけた。

「ありがとうな、地味なとこなのに付き合ってもらって」

「いいのよ。いつも私の行きたいところに連れてってもらってるから。私も勉強になったわ、世界中に知られない名品がたくさんあったんですもの」

2人の年齢を考えるとよほど興味のある内容を除けば美術館は地味で退屈に思えても当然の話ではあるが、恵の反応は全くもって違った。興味津々に原寸大の展示物とそれについての説明文を眺める清麿の姿は珍しいもので、普段あまり見られない彼を見ることができたことがとても嬉しかったからである。

(いつもは彼が私の様子を見守ってくれるんだけど、今日は逆ね)

思いを馳せながら歩いていた恵が目にしたものは、何本も立ち並ぶ桜の木だった。目を木に合わせると、一片の桜がつぼみをつけ始めている。
清麿に見せたくてたまらなくなり、彼の左肩を優しく叩いた。

「どうしたの、恵さん?」

「見て、清麿君。あの桜並木」

促されるままに目を向ける清麿。彼の目にも確かに、桜のつぼみが映っている。

「何もなければ、後ひと月足らずで、綺麗な花が咲くかしら?」

ウキウキと話す恵を見て、いつものごとく考え始める。

「もう少し、かかると思うよ。花が咲いたらまた見に行けるといいな」

数年前、ガッシュとティオを含めた4人で遊んだ時も、この並木通りを通ったことを思い出す。
開花時の様子を2人は見られなかったものの、公園で桜の木を見たときは、はしゃぎながらその時の思い出を語ってくれていた。

そして清麿は桜の木を恵とともに見つめながら、あることを決意するのだった。

(決行は…夜!)
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