本編

□箸休め
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「あ〜〜!楽しみに取っておいた!とろけるプリンが!ない!」

 お風呂から上がり、帰宅途中で買ってきたコンビニプリンを食べようと勢いよく冷蔵庫を開ける。が、どこを探してもあの可愛らしい黄色いフォルムが見つからない!
 ハッとしてゴミ箱を覗くと、空になったプリンの容器とプラスチックのスプーンが無残な姿で捨てられていた。一体誰が食べたのか……。名探偵♡は考えに考えぬき、華麗なる推理によって一人の犯人を導き出した。一刻も早く確保すべく、のんきにソファに寝転びながらバラエティ番組を観ているその背中に、上から思いっきりダイブした。

「犯人はお前だーー!」

「っ、おっも! 何やねん急に!」

「何やねんはこっちのセリフ! 冷蔵庫のプリン食べたでしょ!」

「……あぁ、食ったわ」

「食ったわ……? 他に何か言うことないの?」

「あー、今度買ってきてやっから」

「ごめんなさいでしょ! やだやだ今すぐ食べたいのー!」

 この男全く反省していない! 駄々っ子のように両肩にぽかぽかパンチを繰り出すも、かずまは鬱陶しがるだけで相手にしてくれない。それどころかテレビを観ながらケラケラ笑う始末で。…….もう怒った!

「今からひとりでコンビニ行ってくる」

「……は? あかん、俺も行く」

「いいですー、ごゆっくり寛いでてくださいー」

 財布とスマホだけ持って、いかにも怒っていますと言わんばかりに荒々しく玄関へと向かう。電気も付けずサンダルを乱暴に履いている中、背後からとてとてと足音が聞こえた。

「……なに、何か買ってきてほしいものでもあるの?」

「悪かったって。もう夜遅いし女がひとりで出歩いたら危ないやろ、俺も行くから」

 あまりの情けない声に思わず顔を上げると、リビングからの逆光で表情こそ見えないもののしゅんとしたかずまが居心地悪そうに突っ立っていた。私がその捨てられた子犬みたいな表情に弱いこと知っていてやっているのだろうか。

「……ほんとに悪いって思ってんの?」

「ほんま! もうせえへんって」

 可愛らしく宥めてくるかずまに毒気を抜かれ、結局腕を引かれるまま部屋を出た。

「……もー、かずまほんとずるい」

「ふは、何がやねん」

「すーぐ可愛い顔してごまかすところ!」

 むーっ、と頬を膨らませて睨みつけたら、片手で頬をガッと掴まれた。途端口からぷしゅ〜…と間抜けに漏れる空気。
 人っ子ひとりいないマンションの廊下で、ふたりくすくす肩を震わせる。

「俺もわりと♡の可愛さに免じて許してる部分多いで?」

「嘘じゃん」

「いや嘘ちゃうし、そこは『かずま……! きゅんっ』ってなるとこやろ」

「魂胆丸見えすぎてきゅんのきの字もない」

「あーはいはいそうですか」

 唇をとんがらがせて拗ねてますアピールをするかずまは今をときめくrampageのボーカル様とは思えなくて。バレないようこっそり微笑んだ。
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