短編

□恋
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掃除の時間、





あたしは校舎の窓から中庭を見下ろすのが習慣になっている






ぼんやりと眺めている視線の先には






「...可愛いなぁ」






友達と笑い合っている君の姿








名前は、前田さん


フルネームは前田敦子さん








隣のクラスの女の子









「あー!たかみなまたサボってるー!」








至福の時間をどでかい声で邪魔してきたのは
同じクラスで仲のいい峯岸みなみ。通称みぃちゃん





「サボってへんわ!もう終わらせたっつの!」




サボってると言われるのは心外だ
あたしは毎日ちゃんと自分の持ち場の掃除を終わらせてからこうして中庭を眺めてる。






まあ、超高速だからちゃんと掃除できているかはアレだけど...






「ふぅーん。ていうかいつもいつもここからあっちゃん眺めるくらいぞっこんなら遊びにでも誘えばいいのに」





みぃちゃんはあたしの横に並んで同じように
中庭を見下ろした




「誘えるんならとっくに誘ってるよ」




みぃちゃんと前田さんは2年生の時同じクラスだったみたいで、親しい間柄。






ひと月ほど前、いつも通り掃除の時間にここからこっそり前田さんを眺めていた姿をみぃちゃんに見られ、問い詰められ、前田さんが好きだとバレてしまった




というか、半ば強引に白状させられた










絶対にこの事は言わないでくれと頼み込んだら
『いいよ。そのかわりアイス奢って』とニヤニヤ顔で言われ仕方なく奢ったらちゃんと約束を守ってくれている。






元々言うつもりもなかっただろうけど、一応口止め料は払っとかないとね...







仲良くなりたいなら協力してあげようか?とも言ってくれたけどさすがにそれはみぃちゃんにも申し訳ないし、前田さんもいきなり友達の友達を紹介されたら困惑するだろうから断ってしまった







「あと半年で卒業なんだよー?このままただの同級生でいいの?」








みぃちゃんは窓の淵に肘をついて手に顎を乗せながら呆れ気味にため息をつく





「・・・」





そう、もうすぐあたし達3年生は卒業する





そしたらこうやって前田さんを遠くから眺めることももう出来なくなってしまう






毎日の日課が、なくなってしまう








「もう私はあっちゃんの情報全部出し切ってネタ切れだよ」





なんだかんだ世話焼きの優しいみぃちゃんはあたしの気持ちを知ってから親切に前田さんのことを沢山教えてくれた








感動系の映画が好きなこと、
野菜の中では特にトマトが好きなこと、
誕生日は7月10日だということ。




みぃちゃんのおかげで話したことのない前田さんのことを沢山知れた。








でも








前田さんが毎日何を願っていのか、
誰かのことを想っていたりするのか、







そういう
大事なとこは結局何も知らなくて。










本当はすぐにでも話しかけて仲良くなりたい







だけど、勇気が出ないまま何ヶ月も経ってしまって。







あたしは頭がいいわけでもないし、特別運動ができるわけでもない。自慢できるものなんて何もない






でもこの気持ちだけは本物で。





視線の先でいつも姿を探しているし






誰より前田さんのことを想っているのはきっとあたしだという自信がある







今日も明日もずっと、前田さんのことが一番好きなのはあたしだと胸を張って言える






生きていて思い通りにならないことだらけだし、運もそんなに良くないけど








神様仏様に毎日願ってる。







どうか、前田さんのことだけはなんとかなりませんか






って。







仲良くなったら
前田さんの頭を撫でてたりなんかして、
前田さんが笑って
あたしも笑って





そんな幸せな日を頭の中で描いては一歩も踏み出せないまま今日がまた終わっていく












早く自分の気持ちを言わないと






ずっと好きでしたって伝えないと






卒業したら本当に会えなくなってしまう





言えなくなってしまう








友達と笑い合う楽しげな姿はあまりにも眩しくてキラキラしていてつい見惚れてしまうんだ















「こっち向け、こっち向けー...」










みぃちゃんにも聞こえないくらい小さな声で念じれば








偶然だろうか








不意に前田さんがこっちを見上げて








目が合った








「・・・///」










念力が
神様に届いたんだろうか、









慌てすぎて固まるあたしを見て









クスクス笑って手を振ってくれた







初めて向けられた笑顔は、遠くから見ていた時よりももっと可愛かった







「・・・よし」








一歩を踏み出すなら、今だ
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