蟲夢
□雨の宿
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「おや」
「げ」
奇遇だねぇと声をかける女性は蟲師のキンシ。
ギンコがまだ少年の頃、彼女に世話になったことがあり、
その縁はこうして成長した今も繋がっているようだ。
「もう、なんだよ。げって」
「そのままだよ……」
「はは、昔はもっと可愛かったのにな」
くい、とギンコの頬をつねり、ニコリと頬を緩ませた。
こうした子供扱いする行動がギンコを悩ませていた。
「ギンコと私がこの森にいるということは……
うん。蟲がくるな」
「そうだな」
キンシも、ギンコと同じ体質だ。
しかし常に蟲煙草を蒸しているわけではない。キンシは香を焚きながら旅をしている。香を焚きながら歩く姿はとても妖艶に見えるが、当の本人は人が苦手なので人がやってこなくて好都合だ(一部を除く)と語っている。
少し話しながら歩く。キンシが渡り歩いてきた村、森、山。
普段フラフラとして人との交流が少ないキンシはギンコとの再会を楽しんでいるようだった。
しかし、ギンコはそうでもなかった。
「珍しい蟲を見つけてね。ちょいと異常が起きている感じだったな……」
「へぇ」
「しかしその地域の気温が少々変化があって、それが影響し新たに症状を出していて……って、聞いているのかい?」
「ん?聞いてる聞いてる」
「それは聞いてないな〜まったく」
本当にちゃんと聞いている。ただ、しっかりと返事ができないだけ。
何故か
「ちゃんとお話しは聞きなさいって私から言われなかった?」
「キンシはちゃんと話聞かないからな」
「なっ!聞いてるさ!」
こうして、減らず口を叩いてしまうのは何故か。
キンシの香のせいか。否。
あー……くっそ……。ちゃんと、話したい……。
そうギンコは切に願う。
好き、な筈なのに。
ギンコは蟲煙草の煙を見上げた。