短め

□8.常連客~一般人~
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「だから、また此処を間違えてるの!もう何回言ったら分かるの?」


彩「すみません」


「ハァー…もう自分でするから邪魔だから帰っていいわ。全く…」


彩「本当にすみませんでした、お先に失礼します。お疲れ様でした」


「はいはい。あーもぅ、今日は早く帰れると思ったのに」



東京に上京してきて2年。
大学を卒業と同時にこの会社に入り、毎日が多忙な日々。やっと人にも仕事にも慣れてきたが、やはり地元の大阪に比べたら息が詰まってくる。


そしてさっきのPCを睨んでブツブツ言っているのは上司だ。女性で仕事も出来て憧れるの人…能力では。口を開けば文句や愚痴、まぁミスを注意されるのは当然だが、言い方がきつくて皆から嫌われてしまっている。


彩「ハァー…」


カツカツカツ


私もいつかああいう上司になるんやろうか…いやいや、ならんように気を付けんとな!


満員電車に押し潰され、自宅の最寄り駅で降りる。
これが日常だが、今日は真っ直ぐ帰りたくなくて1つ手前の駅に降りて、行く場所も決めずにぶらっと歩いていると焼き鳥の良い匂いがして誘われるように向かった。


彩「昔ながらやな…」


路地裏に入ってすぐの所に昭和の雰囲気を醸し出す店が現れた。
両サイドには赤提灯、入り口には赤いのれんが垂れ下がっている。
木製に磨りガラスの扉をガラガラと引き戸を開けると、よくあるチェーン店みたいに威勢の良い掛け声は聞こえてこず、ましてや野太く恐い声も無く、聞こえて来たのは若い女性の声と若い男性の声だけだった。


「へい、いらっしゃい」


「いらっしゃいませ。1名様ですか?」


彩「あ、はい…」


「初めての方ですよね?良ければカウンターはどうですか?」


ニッコリ笑う綺麗な女性に案内されてカウンター席へ座った彩。
ぐるっと見渡すと木造の店で大きくは無いが席を少なく置いてあるせいか、広く感じる。壁には昭和のポスターや手書きのメニュー等が貼ってあり、昭和の雰囲気が漂うが店自体は綺麗でそこまで古くない気がした。


「おしぼりです。お酒は飲まれますか?」


彩「あ、じゃあ生で」


「はい、生入りまーす」


「おー、姉ちゃん、梅は食べれるかい?」


彩「はい、好きですね」


「はい、生と本日のお通しは揚げ出し豆腐とふろふき大根です」


彩「ありがとうございます」


「それと鶏と胡瓜の梅ポン和え。サービスだ」


彩「え?そんな悪いですよ」


「ふふ、この店に初めて来て頂いたお礼です。だからサービスさせて下さい、ねぇ店長」


店長「おぅ」


彩が申し訳ないなとお礼を伝えると、ぶっきらぼうな言い方をする男性店長に女性スタッフはくすりと笑っていた。
きっと夫婦なんやろうな…まだ30歳ぐらいやろうか?
2人の行動を見ながらチビチビ呑んでいると常連客だろうか、少しずつ人が入ってきて賑やかになってきた。


「あら、もうこんな時間……そろそろ来るんじゃない?(笑)」


「うわっ…7時か、もう来るな」


時計をチラチラ気にしていた女性スタッフが店長に言うと、店長が顔をしかめながらも笑っている。
常連で酔うと絡み酒をするおっちゃんかな?なんて考えているとガラガラと扉が開く音がした。
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