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□手 (ウネ)
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番組始まる前に下見して貰った時から、あの人はヒョクに「綺麗な手」を連発してた。
「いやあ、本当に指も細くて長いし、俺が女ならこの手に堕ちちゃいますね」
そんなクソつまんない事言いながら、あの人はヒョクの手を顔の近くまで引き寄せて裏返したり撫で回したり…
手相見るだけであんなに触る必要ある?
側で見てるだけでイライラして来ておれは一旦席を外したんだけど、戻って来てもまだやってたから無理矢理割り込んでやめさせた。ヒョクがヘラヘラしてたのにも無性に腹が立ってた。
「手相で何がわかるってんだよ。テキトーな事言ってるだけだろ」
「まあ、いいじゃん。オレは人気線あるって言われて嬉しかったし、お前は将来億万長者だなんて気分良くない?」
ふんとおれは鼻で嗤う。
「別に。そんなの信じてないし。お前だって人気者なのはずっと努力して頑張って来たからで、手相のおかげなんかじゃないじゃん」
「まあな。でも、生まれ持った何かがあるって言われるのは悪い気しないだろ」
確かにそうだけど…
おれは言い返せなくて黙り込む。
はあ、とヒョクが息を吐いてシートの背凭れに頭を預けた。
「そっかぁ。お前、手相は全然信じないのか」
何か含みのある言い方が気になった。
「お前の居ない時に、オレの恋人の話が出たんだけどさぁ」
「えっ」
思わずヒョクの顔を見る。あいつはおれを見ずに宙に向かって話し続ける。
「あの人が先に『ウニョクさん今恋人居るでしょ』って言って来たんだよ。『二人はとっても愛し合ってますね』って」
心を覗かれたみたいでドキッとした。