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□治療 (ギュイェ)
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《ヒョンにしては気が利いてるね》
このマンネは喋れなくても憎まれ口を叩く。ムカっとして思いっ切りほっぺたを抓ってやった。
《病人なのに!》
「なぁにが病人だ!甘えんなよ!」
俺はキュヒョンをベッドに押し倒す。声を出さずに笑いながら、あいつは抵抗する。一応病人だからあんまり手荒な事もできず、力を緩めたらあっという間に形勢逆転で俺は組み伏せられる。
『いい?』
唇がそう動いた。
「何考えてんだよ。ダメダメ。無駄に体力使うなよ」
『ムダじゃない』
ゆっくりと俺にわかるように彼は唇を動かした。
『治療だよ』
キラキラと瞳を輝かせて微笑むとキュヒョンは俺の唇を塞いだ。
悔しいけれど、最近こいつはまた綺麗になった気がする。ミュージカルの舞台の上で放たれる色気は尋常じゃなくて、俺は共演者への嫉妬を感じずには居られなかった。その姿を沢山の人に見て欲しいと思う反面、自分だけのもので居て欲しいというジレンマに苦しむ。
恥ずかしいから、そんな素振りは見せないようにしてるけれど。
柔らかくて弾力のある唇から這い出た舌が、俺の唇を割って入ってくる。
ノックするように歯列を押され、つい開いた隙間から侵入したそれは迷い無く俺の舌に絡みつく。
「んんっ」
不覚にも声が漏れた。
そういえば、キスするの久しぶりだな…
嬲るようなあいつの舌の動きに体温が上がる。
俺は必死に流されそうになる自分にブレーキをかけて、あいつの胸を押し返した。
唇が離れ、不満気な顔でマンネは俺を見下ろした。
《なんで?》
俺は起き上がる。
化粧してないと色の薄い唇が、さっきの口づけで鮮やかな紅に染まっていた。艶めかしさに背筋がぞくりとする。