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□アフターケア
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とんとん、と肩を叩く彼はあの端整な顔面で私のことを心配しているに違いない。でもわざわざそんなことは確認しない。だって顔を上げるのって結構しんどいし疲れる。

「なまえさん。そろそろ起きないと終電逃しますよ」
「いい」
「いいって…」
「トランクスが送ってくれるでしょ?」
「送りますけど……」

でしょうね。なんて彼ならば当然そうするだろうと頭の中で思い浮かべながら近くに置いたはずのワイングラスを手探り状態で探す。くどいようだが顔を上げるのがしんどいから机に突っ伏したままで。

「まだ飲むんですか?」
「飲む」
「飲み過ぎですよ」
「だってトランクスってば、ずっと他の人と喋ってるし退屈だったんだもん」

仕事関係のパーティーではやはり彼は大人気で大忙し状態だった。そりゃあなんたってカプセルコーポレーションの社長さんだもの当然のことだ。

「綺麗なお姉様方に囲まれちゃってさー」
「仕事ですよ」
「とかなんとか言って…」
「…俺って信用されてないんですね」
「うん、まぁ、そう」

だってだって。彼からしたら彼女だの結婚相手だの遊び相手だのいつでも選びたい放題作りたい放題なわけで。目移りするのも時間の問題と言ったら失礼かもしれないが、こっちの気も知らないで…と思うのは仕方ない。

「だいぶ酔ってますね。潰れる前に帰りましょう」
「…嫉妬した」
「嫉妬?」
「うん」
「するようなことありました?」
「相変わらず鈍感」

よいしょと言いながらやっとの思いで起き上がらせた上半身は頗る重い。お酒のせいか、それとも気持ちの問題か…。ただ確かに言えるのはとにかく自分にとって不都合な記憶を片っ端から抹消したい。そのために飲む。記憶がぶっ飛ぶまで飲む。

「なまえさん…あんまり飲み過ぎると二日酔いに…」
「2日でも3日でも酔いたい気分なの。トランクス先に帰ってもいいよ」
「送るよう言ったのなまえさんでしょ」
「まだまだ飲みたいから。待たせるの悪い気がしてきた」
「悪いと思うなら帰りましょう。送ります」
「やだ」

グラスを持つ手がトランクスにぎゅっと掴まれてびくともしない。こっちはぷるぷる震えるぐらい全力だって言うのにこんな涼しい顔で静止されたらさすがに心が折れそう…。

「腕が壊れる…」
「無理やり連れて帰ってもいいんですよ?」
「なんかやらしい。トランクスのスケベ」
「否定はしません」
「無理やり連れて帰って、そのあとどうするの?」

見上げながら呟けば一瞬驚いた表情を見せた彼が照れくさそうに目線を逸らした。自分でも意地の悪い質問だということは自覚しているが今はなんだってお酒のせいにできる都合の良い状態だ。この際なんだっていい。あとで言い訳すればいいんだから。

「ああもう…」
「怒った?」
「意識させたなまえさんが悪い…」
「わざと」
「俺以外にはやめてくださいよ」
「どうかな。いつも嫉妬させられてるから」
「あんまり意地悪しないでください」

あとで責任取りますから、と耳元で呟いて腰にそっと手を添える彼の格好良さに酔いは醒めたが見事に溺れた。



20211024



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