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□不格好な恋でごめんね
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「ふらついてるぞ」
その言葉と同時に私を苦しめていた重みが驚くほど一瞬で消え去った。理由は簡単。彼が私の両手いっぱいにあった荷物を軽々と盗んでしまったからだ。
「あ、ゴジータ」
「持ち過ぎだろう」
「出来れば一度に済ませたくて」
チチさんに頼まれた買い物リストは全てにチェックマークがついた。想像以上に量が多くて驚きはしたが異常な胃袋を持ったあの面々を思い浮かべると素直に納得できる。
こんなことなら気を利かせて一緒に行こうと言ってくれた悟飯くんの誘いを素直に受け入れておくべきだったと後悔している最中だったがゴジータが来てくれたからにはもう敵なしだ。
「よく一人で引き受けたな」
「ここまで多いと思わなかった」
文字だけ見ていればそれほど多いとは思わなかったが現実はこの有様。いったい何人分の料理を拵えようとしているのか店員さんも疑問に思ったことだろう。それでも食べ盛りというレベルでは済まされないあの食欲を持った彼らにとっては私がポテチを食べるぐらいの感覚ですぐに食べ切ってしまうんだろう。恐ろしや。
「ゴジータが来てくれなかったら腕がもげるとこだった」
「最初から俺に言えば明日筋肉痛にならずに済んだのにな」
「失礼な。そこまで柔じゃないよ」
「そんな細い身体で言われても」
「隠れ肥満なんだよ」
最近はとくに腰回りとか…。
気になる部分を摘んでみるとゴジータにクスッと笑われた。ムキムキのゴジータには分からないよ、この悩み。
食材がびっしり詰まった袋を眺めたあと視線は自然と逞ましい腕に導かれる。見惚れると言うべきか、なかなかそこから目を逸らすことができずにいるとそれを察したらしい彼が袋を持ち替えて空いた手で私の頭をポンと撫でた。
「もっと甘えて来い」
「う、ん…」
不覚にもドキドキとうるさくなった心臓を悟られないようにぎゅっと服を掴んだ。もっと「ありがとう」とか「頼りになるね」とか、するすると言葉が出てこればいいのだけれど残念ながら今の私にその余裕は無さそうだ。
「皺になるぞ」
「…あ、うん。だよね」
「気分が悪いなら担いでやろうか」
そう言って不敵な笑みを浮かべながら背中を丸めると目の前で切れ長の瞳が愛おしいものを見つめるように私を映す。
追い詰めるように距離を縮めて、もどかしさを醸し出しながらゆっくりと目を閉じる彼に釣られて私も同じように目を閉じた。
これ以上はダメ。
歩いて帰れなくなる。
( 20210212 )