short2

□雑音をすべて消してください
1ページ/1ページ



自慢じゃないけどこのマンションから見る夜景は最高だ。だから気が付けば夜は窓際だったりバルコニーにいることが多い。

今も一週間仕事を頑張ったご褒美にと普段は飲まない缶チューハイに手を出して夜景を楽しんでいるところ。
そこはオシャレなワイングラスじゃないのか、と思った方もいらっしゃるだろうが残念ながら我が家にそんな洒落たものは無い。

「また夜景ですか?」
「うん。外が心地いい季節だよ」

窓を開けてバルコニーに出てきたトランクスはお風呂上がりでTシャツにスウェットパンツというなんともラフな格好だった。と言っても私もがっつり部屋着だけど。

「こーんなに夜景が綺麗なのに金曜日の私はこの夜景を素直に綺麗だと思うことすらできないんだよ。残念な女」
「?どうしたんですか」
「この一週間、トイレで泣いてる社員を何人か見た」
「それがどう関係あるんですか?」
「私とトランクスがくっついたことによって泣いてる人がわんさか居るってこと」

そう。トランクスと付き合いだしたのは先月のこと。二日間の休日を挟むことによってある程度は気が紛れるがさすがに五日間見てきた様々な泣き顔は結構強烈で最後の方は私までどんよりして来る。
そして時間も経ったことだしそろそろ泣くのはお終いとして貰えないだろうか。

「でも後ろめたいことをしてるわけじゃないですよね」
「そうなんだけどさー。今もトランクスを想って泣いてる人がいるかもって考えたら自分だけ何で幸せな気持ちで夜景見ながらお酒なんか飲んでるんだろうってさー」
「俺は何にも思いませんけど…」
「冷たい男だなっ」
「でも、確かになまえさんを想って失恋した気分になってる連中は居るでしょうね」
「言い方よ、トランクスくん」
「泣いたところで譲りませんけど」
「そりゃあ私もそうですとも」

結局何が言いたいのかと言うと自分が今幸せに浸っているこの瞬間にも他の誰かが傷ついて泣いてたりするかもしれないってこと。

とくに、私の彼氏と来たらあのカプセルコーポレーションの社長さんだぞ。それはもう超がつくほどモテて超がつくほど敵がいるはず。

そんな彼とやっとの思いで結ばれることができた私。これって宝くじが当たるよりも確率が低そうだけど実際はどうか分からないので違ってもスルーの方向でお願いします。

「仕方ないことなのは分かってるしさ…“じゃああげる”って言えるほどできた人間でもないし…」
「なまえさんは優しいですね」
「…そう?」
「俺なんて付き合えたことが嬉しくて他の人のことなんて考えたこともなかったです」
「それが普通なんだよ。トランクスの彼女って次元が違うの」
「よく分かりませんけど…」

苦笑しながら夜空を見上げるトランクスの横顔は至極男らしい。っていうか髪の毛乾かさないと風邪引くよ。

「まぁまぁ、お互いに惹かれ合うものがあったということで」
「悩んでたわりには結構簡単に片付けるんですね」
「そりゃあスッキリとまでは行かないけど…」
「けど?」
「トランクスは私の」

我ながら所有物みたいな言い方をして失礼かと思ったがお顔が真っ赤になったトランクスを見て自分まで恥ずかしくなって来たので謝罪は無しで。

「も、もう中入ろ?」
「は、はい」
「あっついね!扇風機…」
「あの、なまえさん、」
「ん?」
「なまえさんも…俺のでいいってことですよね?」
「い、いいです!」
「どっちの“いい”ですか?」
「トランクスの…です」

お願いだから言わせないでください。


20190609 title 確かに恋だった



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ