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□あの子の彼氏
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心当たりがあるかないかで答えるならば“ない”と即答する。わりと仲は良いほうだと言われるし俺らしくない言葉で表現するならまぁそこそこラブラブってかんじだと思ってた。

誰かに今の状況を説明するなら、単純に浮気されたと言えばいいのか、それとも寝取られたとか逃げられたとか聞こえの悪い言い方を敢えてした方が案外スッキリするのか。顔はそこそこ似たようなもんでも性格はだいぶと違って、そんでも元が同じなわけだからどこか似ている部分があっても別におかしなことでは全くないわけで。だから俺と同じようにあいつにも惹かれたのかもしれない。ムカつくからもうどうでもいいけどとりあえずゴジータの野郎はボコる。全力でぶっ飛ばす。

「ねー…ベジット?」
「なんだよ」
「怒ってる?」
「何回目だよそれ」
「3回目ぐらい?」

何回目かなんて聞いた自分も数えていないが多分それぐらい。なんだ、まだ3回目か、なんて思うほどお人好しではないし気分的には15回ぐらい聞かされた気分だからそこそこイライラもしている。

「俺以外と放課後デートなんて大胆なんだな」
「…放課後デート?」
「しかもゴジータを選ぶところが嫌味っぽい。どうせならもっとチビとかガリ勉にしとけよ」
「…チビ?…ガリ勉?」

首をかしげる彼女に一応証拠として昨日撮影しておいたスマホの写真を目の前にかざしてやると ん?と不思議そうにその写真を見つめていた。違う学校の制服を着た男と肩を並べている姿は今だって目を瞑れば思い出される。イチャイチャしてるわけじゃなかったが普通に仲が良いかんじ。つうか周りから見ればカップル以外のなんでもない。

「あー、昨日の」
「言い訳なら聞かねーぞ。誰にでもほいほいついてく女が自分の彼女なんてシャレにもなんねぇ」
「って言われても…」
「ゴジータなら心広そうだしって?」
「まぁベジットよりは広いかも」
「うっせぇ。つーかお前が悪いのに随分とまぁ強気なこって」
「うーん…。ごめん?」
「疑問形かよ」

ムスッと返せば身体を丸めて座っていた彼女が正座へと体勢を変えてゴジータとは何でもないと言いながら俺の手を握った。あんまり反省の色が見えないのは若干ムカつくが今回は初犯だし見逃してやるか…。

「もうすんなよ?」
「んー、それは厳しいかも」
「はぁっ!?」
「ゴジータの方がベジットよりも長いお付き合いだし」
「ちょっと待て、俺と付き合う前にあいつとデキてたってことか?」
「そんなんじゃないけど」
「じゃあどんなんだよ」
「えーっと……」
「いいから早く言え」
「ひみつ、かな」

なんでこんな状況なのにヘラヘラ笑っていられるのか理解に苦しむ。あれ、こいつこんなやつだったかな。普通に俺だけだと思って…つうか俺と今まで育んできた愛はあれは偽物か?おいおい、ファーストキスだとか言ってすんげぇ顔赤くしてたあれも演技か?

「心配しないで」
「いや、するだろ」
「ほんとになにもない」
「ちょっとフォローが遅くねぇか?」
「だってそんなにヤキモチ焼くと思わなかったから」

ヤキモチ云々の前に状況がおかしい。まるで悪いことなんてなにひとつしていないと言いたげな彼女に溜め息を吐くと「ごめんね?」と言いながらぎゅっと抱き付いて俺の胸に顔を埋めた。許してやるべきなのか、もう少し様子を見るべきなのか自分でもどうしたらいいのか分からなくてむしゃくしゃして来る。

「なぁなまえちゃん」
「なに?」
「この制服、脱がせていいのは俺だけだよな?」
「………なに急に」
「…いいから」
「……ベジットだけだよ」
「仕方ねぇから今回は許してやるか」
「それはどうもありがとう」



(あいつの彼氏は俺だけで充分!)
(ねぇゴジータ。ベジットがすごく勘違いしてる気がする。ただの兄妹なのにね)
(面白いからしばらく黙っておこう)


20190120 title アメジスト少年



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