short

□急速にリアルに迫る世界
1ページ/1ページ



本日何度目かになる溜め息を盛大についてから少し痛む腕に視線を向けた。自分で自分の腕に包帯を巻くのって結構難しい。思ったよりも上手くいかなくてむずむずと歯痒い思いをしながら再度チャレンジをするがやはり上手くいかない。どうしたもんか。せめて足ならこうも面倒なことにはならなかったのだろうけど、怪我をする場所をいちいち選んでもいられない。今回は運が悪かったと思うことにしよう。

元はと言えばベジットと4ゴジが喧嘩なんてするからだ。しっかりとばっちりを受けてしまった。考えているうちに傷口を見つめている目が少し熱くなってきて涙が滲む。泣くほど痛いわけではないけれど何故だか虚しい気分になって机の上に顔を伏せると、しばらくしてからとんとんと肩を叩かれた。

「…ゴジータ」
「どうしたんだ?その腕」
「ちょっといろいろと…」
「またあいつらか?」
「んー…うん。よく喧嘩しちゃってるから」

ゴジータは顔を曇らせながらも優しく手当をしてくれて気が付けば自分の腕には包帯が綺麗に巻かれていた。いつも怪我をするといち早くそれを察知した彼に手当をしてもらうのがお決まりになっていてなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「あまり近付かないほうがいい。また怪我をするぞ」
「でも…放っておけないの。あの二人」
「お人好しだな」
「毎回私の手当てをしてくれるゴジータもお人好しだと思うよ」
「そうは言ってもずいぶんな嫌われようだ」
「………?」

詳細を話すことのないまま部屋を出て行くゴジータの背中を見ながら先ほどの意味深な言葉の意味を考える。嫌い?誰が誰を?話の流れ的に挙がる二人の人物は私とゴジータだろうと推測できるが、私がゴジータのことを嫌いだと一度でも口にしたことがあっただろうか。

「(…たぶん、ない…)」



ゴジータに手当てしてもらった腕はだいぶ良くなって痛みも無くなった。あの日以来ゴジータと会う機会はないけれど、ベジットや4ゴジからは元気にしていると聞いているから一安心と言えば一安心。だけどできることなら少しでもいいから会いたいと思ってしまうのはゴジータがいつも優しく接してくれるからだろうか。

「なぁなまえ。ゴジータと何かあったか?」
「どうして?」
「あいつがお前に嫌われてるから顔出しにくいって4ゴジに話してるの聞いちまった」
「…え?べつにゴジータのこと嫌いじゃないよ」
「どっちかっつーと好きだよな」
「………」

返事をしない私に見てれば分かると笑みを浮かべるベジットに思わず顔が引き攣る。見てれば分かる…か。やっぱり心のどこかで彼のことを意識しているらしいがそれに気が付いたところでそれを彼に伝える術もない。逆にギクシャクしてしまったら嫌だし。

「…ゴジータと居ると緊張して上手く話せないし目も合わせられない」
「よっぽど好きなんだな」
「…好きなのかな?」

うんうんと頷くベジットに肩に触れろとジェスチャーされたのでその通り彼の肩に手を置くと景色が一変してそこにはゴジータの姿があった。

「急にどうしたんだ?」
「なまえがお前に話があるって言うから連れて来た」
「えっ!?」
「そんじゃ、あとはお二人さんで」

逃げるようにその場から居なくなってしまったベジットに掛ける言葉は何もない。あったところでどうせ聞いてやしないけれど。この状況を私にどうしろと言うのだろう。

「あの、ゴジータ…」
「ん?」
「私の勘違いだったら聞き流して欲しいんだけど…」
「あぁ」
「私、ゴジータのこと嫌いじゃないよ。ただどう接したらいいのか分からなくなることがあって…その、どう言ったらいいのか…」

なにを伝えればいいのか全く整理はできていないが、とりあえず知っておいて欲しいのは嫌ってなんかいないということだ。どこをどう誤解させてしまったのか分からないから尚更。

「それは悪い意味でか?」
「自分でもよく分からないけど悪い感情はない、です」
「そうか。なら勝手にいい意味で捉えておくとするか」

突然腕を引かれて彼の身体に飛び込む形となってそのまま一緒に芝生の上に倒れ込んだ。私はゴジータの上にいるから痛くはないが本人は結構痛かっただろうに。それともこんなのは慣れっこだろうか。

「腕は?」
「もう平気」
「前にも言ったがあまり喧嘩の仲裁には入るな。大怪我でもしたら大変だ。それに、俺に嫉妬させないためにもな。怒ったら怖いぞ」
「嫉妬…」

なんだろう、この漫画みたいな展開にものすごくドキドキしている。これが現実の世界で起こっているなんて信じ難い。



20181115 title / コランダム



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ