short

□街に出よう
1ページ/1ページ



※ベジット夢の自問自答してみた の後のお話です。



目の前のグラスを手にとれば中のオレンジ色が静かに揺れた。オレンジジュースなんて子ども過ぎただろうか。ストローからその飲み物を吸い出しながらチラリと男の方を見る。

ゴジータの様子がおかしい。
そう感じたのは、この日会ってすぐのことだ。あまり目も合わさない。何処となく余所余所しい。気まずい空気が流れるなか、なまえは落ち着かない様子でゴジータに話し掛けた。

「あ、あの。ゴジータ」
「?」
「今日は…その、どうしたの?」

見慣れない男の私服を指差して問う。いつもは自然溢れる環境でふたりの時間を過ごすことが多いため、こんな格好は滅多にお目にかかれないのだ。

元はと言えば、昨夜ゴジータからの電話で 街に出ようと提案されたのが始まりだが、ただでさえ目立つゴジータのことだ。若い女性が彼を見て振り返るのがどうも気にかかる。

「たまにはいいだろ?」
「う、うん」

うまく笑えない、そう言えば正しいだろか。この会話を最後に また沈黙が続いてしまった。そして、絶えず周りからは視線を感じる。先日ベジットと街を歩いた時と同じ感覚だ。

「どこに行こうか?」
「ゴジータと…一緒にいれたらどこでも嬉しい。けど、できたらいつもみたいに ふたりっきりでいたい…な、」

勇気を振り絞った。顔からは火が出そうなくらいに恥ずかしい。どうしようもなく口をつけたオレンジジュースが凄い勢いで減っていくのが見てわかる。

「あまり楽しくないか」
「そうじゃないけど、…」

いつもはベッタリくっついていられる時間も、街ではそうは行かない。それに、どうにもゴジータに向けられる女性の視線が気になって仕方なかった。

「ゴジータはどこか行きたかったんじゃないの?」
「いや、ただ単に俺も外に出たくなったんだ。ベジットみたいにな」
「ご…めん、」
「いいさ。俺だって嫌々だったにしろ許可したからな」

うつむくなまえの手を引いて会計を済ませると、少し離れたベンチに並んで腰を下ろした。

「帰ろうか、なまえ」
「…せっかく来たのに、ごめんね」

今にも泣き出しそうな彼女の頭を撫でて自分の肩に乗せると、瞳に溜まっていた水滴がゴジータの服にしみた。

「ベジットの方がよかったか?」
「違う、よ。私はゴジータが好き…っ」

なら良かった。そう呟いて震えるなまえの身体を包み込めば、彼女も答えるようにゴジータの背中に手を回した。

「この前、ベジットとなまえが街に出た時、楽しそうにしていたと聞いて俺も一緒に行ってみたくなったんだ」

まぁ、大体は実際に見ていたが…。ベジットといる時のように笑っていない彼女を見て嫉妬していたのかもしれない。

「また、…ベジットに連れてきてもらうといい」
「なん、で。なんでそんなこと言うの…?」

俺はなまえを楽しませてやれないみたいだ。苦笑いを溢して、彼女の涙を指で掬い上げれば、また再び彼女は俯いてしまった。

「ベジットと仲良くするのは別にいい。ただ…もうキスはさせるな。手をつなぐのも抱き締められるのも、気をつけてくれ。…お前は俺の彼女だ」

強引に顔を上に向けさせて額を合わせた。……ずっと心配だったんだ。ベジットだけじゃない。俺以外の男に触れられるんじゃないか、横から取られていくんじゃないか。俺が積み上げて来たものを一瞬で崩していく男が現れるんじゃないか。

「やっぱり、できれば、…俺だけにして欲しい。なまえが楽しめるように努力する」
「楽しい、よゴジータ…もっといろんな所に連れて行って。お願い」

頬を赤くしながら言う彼女に思わず目を見開いた。周りには人がいるが、もうそんなことはどうでもいい。

「なまえ…。キス」
「こ、ここでは無理」
「誰も見てないさ」

無理無理!と慌てる彼女の頭を押さえつけて強引に唇を重ねた。周りからは わぁっと声が聞こえたような気もしたが、もう、誰にも邪魔はさせない。


20180613


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ