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□愛しい嘘つきを擁護
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「ねーベジットさん。最近4ゴジさん、変ですよね?」

ソファに深く腰を落としてハァ、と溜め息をひとつ。最近4ゴジさんと会える時間が減ったことや会えたとしても今までとは少し様子が違う彼のことでベジットさんに相談というか、ちょっと探りを入れるというか…ベジットさんなら何か知っているかもしれないと思ったけれど、そんな期待も虚しく「あいつはいつも変だぜ」と笑って流された。

「変によそよそしいような…。あんまりくっついてくれないし…」
「照れてんじゃねーの」
「照れるタイプかな?むしろウェルカムな感じに見えるけど…」

私だけ避けられてる気がする。と言えば単なる気のせいだと返されることが分かっていたからこれはベジットさんにも言えなかった。それに自分でも「もしかしたら気のせいかも」って少しは思ったりなんかもしたから。



買い物を済ませて必要なものを冷蔵庫に移し変えていると窓がコンコンとノックされ慌てて駆け寄ったけれど私が窓を開けるよりも彼が自ら家に入る方が早かったらしく、私が窓のあるリビングに辿り着いた時にはもう彼は開けた窓を閉めてしっかりと施錠までしているところだった。

「ちゃんと鍵かけろって言ってんだろ?」
「…はーい」

本当は4ゴジさんがいつでも入れるように買い物から帰って来てすぐに窓の鍵を開けたのは秘密だ。さすがに留守の時は施錠してあるが家にいる時はほとんど開けっ放しの状態だった窓の鍵は今日は4ゴジさんに閉めてもらえて喜んでいるかもしれない。

「あの、4ゴジさん、最近忙しいですか?」
「いや?そんなことねぇけど」
「…そう、ですか」

この時ばかりはいっその事“忙しい”と言われた方が心がすっきりしたのかもしれない。忙しいから会う時間が取れなかった、忙しいから私とくっ付こうとか相手をする気にもならなかった。…って言われた方が色々と我慢できたのかも。

「…………」
「なまえ」
「……は、い?」
「冷蔵庫開けっぱ」
「あ……、」
「早く閉めろって催促されてんな」

閉め忘れていた冷蔵庫がそれを知らせるためにピーピーと音を鳴らし始めると4ゴジさんが残りの食材を冷蔵庫に押し込んでパタンと扉を閉める。決して綺麗な入れ方とは言えないけれどこういう豪快なところとか、わざわざしまってくれる優しさとかね、素敵だなぁと思うわけです。

ちらりと4ゴジさんに視線を向ければ丁度同じタイミングでこちらを見た彼と目が合ってドキっと胸が高鳴る。ちゃんと顔を見るのも随分と久しぶりじゃないだろうか。そして何食わぬ顔で手招きをする4ゴジさんのもとへ近寄るとぐい、と腰を引き寄せられた。


「きゅ、急…です、ね?」
「俺がいない間にベジット連れ込んだな?」
「べつに連れ込んだわけじゃ…、って、なんでわかるんですか?」
「あいつのにおいがする」

に、におい……。意味が無いと分かってはいるが一応鼻をくんくんとさせてみる。案の定自分の部屋のにおいしかしないが4ゴジさんにはベジットさんのにおいがするということなので私なんかよりも優れた嗅覚をお持ちのようだ。

「仲良いな。ベジットと」
「悪くはない…ですけど」
「ふーん…」

意味深な「ふーん」と共に肩口に埋められた4ゴジさんの顔。ふと長い髪に触れれば腰を抱き寄せる腕にぐっと力が入って息苦しく感じるほどお互いが近くなる。
最近はこの温もりも忘れてしまっていたのに今はああ4ゴジさんはやっぱり暖かいなぁって以前と変わらない彼に安心している。


「ベジットはまぁ…人間っぽいもんな」
「……人間っぽい?」
「普通にしてりゃあ街ん中歩いてても違和感ねえだろ?」
「確かに…見た目だけだとあんな人だとは思わないかも」

性格はまぁアレだし。なんかめっちゃ強いし。たまに髪の毛の色が変わったりするけどパッと見はそこそこ普通…かもしれない。

「俺なんかこんなだぜ?ロン毛だし?尻尾だってあるんだぜ?」

分かりやすくゆらゆらと揺れる尻尾は当然私には生えていないしベジットさんにもないものだが4ゴジさんが何を言いたいのかいまいち理解できない。さすがに最初は私も驚いたけど、慣れれば尻尾も可愛いし…全体的にふかふかで私は凄く好きなんだけれど…。

「俺よりベジットのが似合ってんだろうな」
「え、」
「俺がなまえの隣歩いてたら悪目立ちすんだろ?」
「で、でも…」
「デートもできねぇしさ」
「そ、それはつまり、別れようってこと…ですか?」

途切れ途切れに発した私の問い掛けにいとも簡単に頷いた彼は優しく頭を撫でたあとぽんぽんと宥めるように私に触れ続けた。
突然のお別れ発言に動揺しないはずがない。そして自分に至らない所があったのだろうかと考えを巡らせていると最近の彼のそっけない態度と結びついた。別れたいと思ってたから冷たかったのか…なるほど…。


「べつに…ベジットさんのこと好きじゃないし…4ゴジさんとデートだってできてるし…」
「川で釣りしたな」
「夜景も見ました」
「あぁ、そのあと散々抱いた」
「…次の日身体中痛かったです」
「そりゃーあんだけやれば?」
「思い出しちゃうのでやめて下さい…」

なかなか夜の方が旺盛で積極的な4ゴジさんだが今はそんなことさえも思い出すと複雑な気持ちになってしまう。ただ、彼が暗い雰囲気にさせないようにしてくれているような気がしてますます私の涙腺が崩壊しかけているのが心苦しい。

「…デートなんかできなくてもいいし…髪の毛が長くても尻尾があってもそれが4ゴジさんだし…、」

髪が長いとか尻尾があるとか悪目立ちするとか、そんなことは私にとってはもう普通のことで、今更それを理由に別れようなんて言われても心がついていかないのが現実だ。私、4ゴジさんが居なくなったらどうなるんだろう。これから一般的なふつーうの人とお付き合いなんてできるだろうか。というか、弱い人は嫌だな…4ゴジさんと比べたらそこそこ強い人でも弱く感じちゃうしなんなら空だって飛べるほうが……、

「泣くなって」
「4ゴジさんのせい…」
「こんな可愛い彼女を泣かすなんてな」
「ほんとですよ」
「責任とって泣きやますか」
「そうしてください」
「ん。そういうとこすげー好き」

そう言うと4ゴジさんは指の腹で私の目尻を拭ったあと後頭部に手を添えてゆっくりとソファの上に身体を倒して行く。思わず、別れる話は?と問い掛ければ「ん?撤回」ってイタズラが成功した子供みたいに笑うもんだからまぁ許してあげるか、って気持ちになった。



20200127
(愛する希弥さまへ)



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