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「あいつ、お前のことが好きらしい」
腕立て伏せを繰り返しているゴジータに唐突に言ってやるとあからさまに何の話だ、という顔をされた。
敢えて名前を出さずにあいつと表現したのは数少ない俺の優しさだ。さすがに他人の俺からゴジータに自分の気持ちを伝えられていたと知ったら良い気はしないだろう。
「あいつ?」
「誰とは言わない」
「ヒントをくれ」
「人間。女。独身」
こんなヒントで大丈夫か。むしろヒントになっているのか。突っ込むところは幾つかあるが俺の想像を遥かに超えてゴジータは「あぁ、わかった。なまえか」って簡単に言いやがった。
「あたりともはずれとも言わねぇよ」
「べつに答えなくてもいいがなまえしか思い浮かばなかった」
「お前も同んなじ気持ちってことか?」
腹筋していた俺が動きを止めると片腕で腕立てをしていたゴジータもその体制のままピタリと止まった。
「“俺は”なにも言われてない」
「どういう意味だよ」
「なにも言われてないから、どうにかなることもない」
じゃあ、もしあいつに好きだって言われたらどうにかなるかもしれないってことか。ゴジータらしい。いや、褒めてんだよ。受け身っつうか、控えめっつうか。
「俺が先にあいつのこと奪ってやろうかな」
「性格が悪いな。悟空とベジータが泣くぞ」
「お前も元は同じだっての」
「それもそうか」
妙に納得しているあたり本気で忘れていたらしいゴジータの背中の上にドン、と胡座をかいて座ってやると「うっ…」と鈍い声が上がる。もっと修行しろばーか。修行オタクのくせに。…あ、人のこと言えねーか。
「いったいなんのつもりだ。退け」
「あいつが欲しい」
「そもそも俺のじゃない」
「いいからよこせ」
「なら、ちゃんと本人に伝えるんだな。真剣に」
分かってんだよそんなことは。
…って言い返すつもりだったのに、よく考えてみればちゃんと伝えたことなんて無かったかもしれない。この前はドーナツの話だと勘違いされていたぐらいだ。俺がちょっとふざけて言った「好き」くらいなら冗談や嘘だと思われてしまっても仕方ない。
「……ちゃんと言ってみるか」
どうせ結果はわかってんだけど。
20191212