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□ゴジータ
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「……鍵がない?」
「そう!だから一晩泊めてお願い!」

なんでも昼から家族が旅行で家を空けるため出掛けるときは自宅の鍵を持っていくようにとしつこく注意されたにも関わらずこの日に限って昨日持ち歩いていた鞄の中にいれっぱなしにして来たらしい。

「家族もお前ならすると思ったんだろうな」
「まぁ、たぶん?」
「鞄をかえるからだ」
「服に合う鞄を選んだだけだよ」
「それでも中身は確認するだろ普通」
「うっかりってやつです」

へへ、と笑いながらパンプスを室内用のスリッパに履き替えると何やらよくわからない歌を口ずさみながらリビングのソファーに座っていたぬいぐるみを抱き上げた。

「久しぶりだねゴジくん」
「紛らわしい名前をつけるな」
「ゴジータと似たような名前にしたかったの!こんな可愛いクマちゃんが家にいるなんて知ったらみんな笑っちゃう」
「来客がある時は物置きにしまってある」
「ひどいねーこんなに可愛いのにねー」

よしよしと彼女に頭を撫でられているこのクマのぬいぐるみは以前一緒に行ったテーマパークで購入したものだ。
なんで彼女の家ではなくて俺の家にあるのかと言うと、彼女いわくこのソファーに座っている方が映えるらしい。そして毎回飽きないのかと思うほど何枚も写真を撮っている。

「泊まるならクマは物置きな」
「えー、なんで?」
「お前がクマばかり構うから」
「………」
「返事は?」
「せめて寝室の端っこで」
「仕方ないな」

そういうことでクマがソファーを陣取ることもなくなって広々とふたり並んで座ることができたのは随分と久しぶりのことだった。
3人掛けのソファーにあんなどデカイ図体でいられたら邪魔で仕方ない。


「お風呂、先にごめんね」
「ああ。服は洗面所に置いておく」

念のためいつ泊まりに来ても大丈夫なようにと一式揃えてある彼女の服を寝室に取りに行けば部屋の端っこにはさっきまで彼女に抱かれていたクマが壁側を向いた状態で座っていた。

「なんでこっち向きなんだろうな」

問い掛けてももちろん答えは返ってこない。が、彼女が考えていることはなんとなく分かるからクマは敢えてそのままにしておいた。

「終わったらソファーに戻してもらえるさ。あと、どうせなら耳も塞いでおけよゴジ」

見えないように壁側を向けても声が聞こえてたら意味ないよな。



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