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□年上ゴジータとコンビニ店員
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好きになったきっかけは恥ずかしい話だが単純に彼の声がタイプだったから。

コンビニでバイトをしていると色んな人と顔を合わすことになるが、要は彼もその中の一人で。いつも無糖の缶コーヒーをひとつ買って行く彼は最初から最後まで言葉を発することは無い。手短にレジを済ませてそそくさと帰って行く。イメージとしては真面目で無口な人。

そんな彼の声を初めて聞いたのはまだ最近の話で。お釣りを渡すのに手が触れてしまって私が慌てたせいで小銭を渡し損ねるという状況になった時、「いいよゆっくりで」って言ってくれたのだ。その声がとっても素敵ボイスで最高だった。


「声だけ好きになられてもな」
「声から入ったってだけですよ?」

いつもと同じように缶コーヒーをレジに置いたゴジータさんに今日もお疲れさまですと想いを込めながらお会計の済んだコーヒーを手渡した。

声を聞いた翌日、またコンビニにやって来たゴジータさんに思わず声が好きですと告白したのは多分自分でもぶっ飛んだ行動だった。だが、それからというものゴジータさんはレジのたびに私に声を掛けてくれるようになって今ではそこそこ仲良しに。(と私は思っている)

「じゃあ今は声以外も好きだって?」
「もちろんです」
「たとえば?」
「マッチョな身体とか」

ふふんと頬が緩むのはこの声が聞けて、しかも台を挟んだ向こう側には鍛え上げられたマッチョな身体があるからだ。筋肉も大好物な私としてはゴジータさんはかなりレベルが高い。

「今夜デートしましょ?」
「学生は帰って勉強するんだな」
「最近の若者は発育が良いらしいですよ?」
「お誘いどうも」
「もうすぐ交代の人が来るのでそれまで待っててくださいね?」
「ああ、家ぐらいは送って行くよ」
「デートは?」
「子どもが夜遊びなんてするもんじゃないぞ」

ひらひらと手を振って去ってしまったゴジータさんに口を尖らせながら「またふられたなぁ」と心の中で呟いた。まだ夜遊びだと説教される時間でもないし、もう子どもじゃないし!って思ってるのは自分だけでゴジータさんから見たらまだまだ子どもなんだろうけどさ。



シフト通り交代の人が来たので軽い引き継ぎをしてゴジータさんがいつも買っていく無糖コーヒーを自分も買ってみた。コーヒーを飲むこと自体珍しいし、ましてや無糖なんて飲んだことあったかな…。

「遅かったな」
「わっっ!ゴジータさん!帰ったんじゃ?!」
「家まで送るって言っただろ?」
「言ったけどまさか本当に待っててくれてるとは…」
「待ってないと根に持たれそうだからな」
「そんなことないですよ」

確かにちゃんと約束して私がその気でいたのにすっぽかされたら怒るし根に持つかもしれないけど。今回は待っててくれたらラッキーなんてことも思わないぐらい冗談だと思っていた。ゴジータさんってば優しい!

「私が裏口から帰ってたらどうしてたんですか?待ちぼうけですよ」
「その時は裏口に回ればいい」
「ワイルドですね」

とは言えゴジータさんが家まで送ってくれるというので自分用に買ったコーヒーをお礼の気持ちとして彼に差し出してみる。

「いつもこれですけど、そんなに美味しいですか?」
「苦い」
「無糖ですもん」
「そのほうが年上として格好がつくだろ?」
「なるほど。恋してるんですね」

隣を歩くゴジータさんを見上げれば「そうだな」って言いながら少し笑った。ゴジータさんに想ってもらえるなんてなんと羨ましい…。

「だからいつもそれを買って行くんですね」
「これを買うだけなら自販機でいいんだけどな」
「え、…ってことはゴジータさんの好きな人って」
「ん?」
「いつもゴジータさんと同じくらいの時間に来て野菜スティックを買って行くあの美人さんですか?!」
「…野菜スティック?」
「あれ?違うんですか?」

だってそのコーヒーを飲んでいるのを知ってて、さらには自販機で買えるものをゴジータさんがわざわざコンビニまで買いに来てるって、もうあのコンビニに居る人物で間違いないじゃないですか!

ゴジータさんに詰め寄ればくすりと笑みを浮かべた彼は私の腰に手を回して「いつもレジありがとう」と言いながら顔を傾けた。

何がどうなっているのかもう考える気にもなれないが、とりあえずゴジータさんのキスは苦かった。おそるべし無糖コーヒー。


20190511



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