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□ゴジータ
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幾度となく年齢を重ねて来たが、いつまで経っても彼女という存在は擽ったい。もう彼女がどうとか恋人がどうとか言う年齢でないのは確実だが位置付けとしては恋人同士なのだからそれ以上でもそれ以下でもないような気がする。

相手に好きだと伝える所謂愛情表現も俺と彼女とでは随分と差があって何度か泣かせてしまったことも否定はできない。そもそも男女の差で当たり前のように違いがある上に俺はそれにプラスされるものがあるわけで、思った以上に上手くいかないものだというのが恋愛に対する俺の印象だ。

「器用貧乏」
「なんだ急に」
「ゴジータのイメージ」

コーヒーが淹れられたカップに浅く口を付けながら俺のイメージを話し出す彼女に呆気にとられるがそれを隠すように自分もコーヒーを啜る。器用貧乏か。どうやら褒め言葉ではないらしい。

「私は?どんな感じ?」
「口うるさい」
「ひどっ」

少々乱暴に置かれてしまったカップの中で液体が揺れるのを眺めてお互い無言になる。揺れが落ち着いた頃、先に口を開いた俺が“いい意味でな”と付け加えるとあからさまに怪訝な顔をされた。

言葉の通り彼女はいい意味で口うるさい。面倒見が良くて気が効くぶん、俺のことには何かと口を出して来て母親みたいなことを言う。ハンカチは持っただの、帰りは何時だの、思い出すと結構笑えてくる。

「器用だから口うるさい私とも付き合えるんだよ。でも“ある程度”で満足しちゃうから結局上手くいかない。器用貧乏」
「どうも」
「褒めてない」

彼女の言うある程度がどの程度なのか分からないが現状で満足していたのは事実で上手く逃げる言葉も見つからない。 でも自分では上手く行っていると思っていた。お互い好き同士で一緒に居るのだから。

「どれだけ一緒にいてもお前の扱いは上手くならないな」

“ある程度”よりも先を望んでいるらしい彼女の顔を見つめると、そこは器用にこなしてくれと真顔でお願いされる羽目になった。



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