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「ん…、っ、…」
ゴジータさんが仕事を抜け出して家まで送ってくれることになったのは正直ありがたかった。思ったよりも酔っていて自分ひとりで帰れる自信がなかった。
そんなことより、ゴジータさんは仕事で私は休みという貴重な今日に何故お酒を飲んでしまったんだか。もっと楽しいことをしたらよかったのに。
「もっと舌出せるか?」
「ん、」
素直に従えばまるで様子を伺うように少しだけ舌先が触れ合った。目を開ければ熱い眼差しと視線が絡んでどうしようもなく蕩けそうな衝動にかられるのに、手を伸ばせばその手は彼に届くことがないままシーツに縫い止められてしまった。
「初めて連れて帰った日もこんなんだったな」
「…覚えてません」
「初対面の、しかも酔ってる相手に罪悪感があったのに止められなかった」
「どうして?」
「可愛かったから…かな」
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事を終えてシャワーを浴びたゴジータさんが何度か時間を確認しながらキスをしに来る。早く仕事に戻らなきゃって気持ちはあるようだ。
嗅ぎ慣れたボディソープの香りを漂わせながら子供のようにキスを強請りに来る様はクールな印象とはかけ離れていてギャップというのか…なんだかきゅんとした。
「ゴジータさん」
彼のシャツに手を伸ばして「ボタン忘れてますよ」と言いながら忘れられてしまった第二ボタンに指をかけると不意にぎゅっと抱き締められた。
「…ゴ、ゴジータさん…?」
「あの時、俺に抱きつきながら家に帰りたくないって言った」
「ご…ごめんなさい」
「それがすごく可愛く思えて俺も帰したくないって」
力強い彼の両腕に収められていて表情までは分からないけれど、冗談とか嘘ではないような気がして照れくさいのと同時に心の底から嬉しくなった。
「素直に駄々をこねて良かったです」
「なまえが帰るって言っても俺が帰さなかっただろうな」
「それは…初耳です」
ゴジータさんの背中に両手を回して抱き合うとこれまでにないくらい良い雰囲気に包まれて“これはもしや…”なんて淡く期待したけれど彼の口から発せられたのは「ゴテンクスと仲良くするのはほどほどにしてくれよ」という言葉だった。
「べつに仲良くしたっていいじゃないですか…」
「ほどほどに、な」
「けち。なんでですか」
「俺が妬くから」
頭に唇を落とされて顔を上げれば今度は額に、次は頬に優しいキスが降った。
いい歳の男が嫉妬深いなんて情けないよな、と困った様子のゴジータさんに首を横に振って答えると少しにこりと微笑んだ。
「なまえ限定だ。あまり嫉妬させないように」
「わ、わかりました」
「ずっと一緒にいよう」
嗚呼、お願いだからこれ以上ドキドキさせないで欲しい。
なんたって私はこの意地悪な恋人に酷く酔わされる日々の連続で、すっかりお酒が美味しいと思えなくなってしまったのだから。
20191024 end